メガネ21相談役平本 清1950年、広島県生まれ。68年、広島電機高校(現広島国際学院高校)卒業。同年、広島県内の大手メガネチェーンに入社。79年商品部長。86年、同社を解雇。同年、同僚4人とメガネ21設立。120超の店舗をチェーン展開。2010年より現職。

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1986年に4人で立ち上げたメガネ21がどんどん業績を伸ばしていた頃、長年読み続けている漫画誌を買いに立ち寄った書店で、たまたま見つけたのが経済評論家・日下公人先生の『人事破壊』でした。

一読してほんとにビックリしました。「人事権は崩壊する」「正社員は部分品になる」「誰もが納得する志願制を」等々、21がやっていることは全部OK、まるで上から見ているんじゃないかっていうくらい、書いてある中身とウチのやり方とが一致していたんです。

90年代半ば頃の21は“胡散臭い会社”と見られていました。格安のメガネの売れ行きは好調だが、儲けは社員で山分けして会社には残さない。それなのに急成長を続け、社員には給料をちゃんと出している。ある経済学の教授に「そんなの不可能だろう」と食ってかかられたほど(笑)。でも、実のところ我流でつくったシステムだから、高卒で経済学も経営学も知らない僕は、本当にこれでいいのかどうか自信がなかったんです。

僕は会社の後輩に頼んで、出版社を通じて日下先生に手紙を送りました。手紙には、「ぜひ、ウチのチラシに載っていただきたい。その代わり、バイブルとして先生の本を買わせていただくし、ウチは生きた実例として先生の本の広告にもなる」と書いたんです。すると1カ月くらい経って、日下先生から直接電話がかかってきました。

先生には電話口でチラシの件を快諾していただき、「平本さん、今からいうことをメモしてください」とおっしゃって伝えていただいたのが、「価格破壊ができる会社は、人事破壊が済んでいる」というコピー。そらもう、僕は大喜びですよ。早速、先生の写真にこのコピーを添えたチラシをつくって大量に配りました。

僕は創業メンバー4人の中で一番年下だったので、先輩にはなかなか話を聞いてもらえなかったんですが、これを契機にそういうことはなくなりました。謝礼を固辞された日下先生には、相場の2倍で講演をお願いしました。先生が多忙なため、来ていただくのに2年もかかりましたが。

21には専従管理職の役員がいません。女性8人で総務・企画や人事・採用・経理などをすべて担当していますから、物凄く効率がいい。会社の印鑑だって、そのうちの1人が管理しています。マスコミで「ノルマなし、ボーナス500万円で楽しくやってます」と紹介され、求人の募集をしたら希望者が殺到しました。そりゃ事実には違いないけど、その半面、厳しいところは厳しいですよ。

企業のイノベーションを妨げているのは「経営管理」。ほんとは社員も賢くて、きちんと自己管理ができるものです。21の“人事破壊”システムは、以前勤めた会社でピラミッド型組織のマイナスをイヤというほど体験したから可能となったんです。

18年間勤めた大手メガネチェーンを辞めた際は、心身ともにボロボロ。人間不信に陥りました。初代の社長さんからは評価していただき、「会社が大きくなったらおまえらのもんじゃ」と言われてきましたが、結局は初代の子女が後を継ぎ、議決権の7割を独占しました。

優秀な経営者も年を取ると保身に回り、子供の言うことを聞かなきゃならなくなる。亡くなれば、約束も全部反故になる。初代に悪気はなくとも、結果的に裏切られたわけです。出る杭は打たれるというか、謀略に嵌められ、物凄い攻撃を受け、もうだめだと思って退職願を出しました。後輩たちにも「送別会は一切するな」「『平本のことは嫌いだった』『しょうがないから従ってきただけ』と言えばいい」と伝えておきました。

2カ月後、業務の引き継ぎを終えたら解雇通知が来た。自己都合退職などさせない、というわけです。二代目に、「あなた、今度メガネ屋をやるなら日本に住まないで」と言われた。まあ、実力は認められていたんでしょうが(苦笑)、その後は自宅が監視され、窓ガラスが割られ、車のドアが壊された。正直、殺されるかもしれないと思ったほどですよ。

何を信じて生きていけばいいのかわからず、悩みに悩みました。藁にもすがる思いで本屋に飛び込み、宗教書・哲学書をまとめ買いしたんです。キリスト教や仏教の関連書に交じって、『論語』もありました。出版社は忘れましたが、大判で字も大きく読みやすいイラスト入りでした。

読んでみて、あ、孔子ってほんとに人間臭く生きているな、と思いました。当時の僕の気持ちとぴったり重なったんですよ。

孔子だって、出世はできなかった。2500年前、殺戮が日常茶飯事だった中国・春秋時代に、勝った者が財宝も女もすべてを奪うという当時としては当たり前のやり方を否定したんですから。恐らく他人に裏切られるような経験もしたでしょう。でも、あの人は名を残した。気持ちが重なったのはそういう部分です。その後も『論語』についての本を10冊以上読みました。わかりやすいとこだけ、じっくりと考えながら読む。読み終えた分は社員寮にあります。

本から学ぶ人には、その人の中に肚のすわった何かがあるはずです。でないと、何冊読んだって役に立たない。戦後の焼け跡から立ち上がった名経営者は、尊敬する松下幸之助をはじめ、皆『論語』を読んでいます。上に立つ者のすべきことや心構えが書いてある。例えば、「恕(じょ)」。「何か一つだけ守るべき教えは何ですか」と弟子から聞かれた孔子が返した言葉で、人に対する思いやりを意味します。自分が幸せになるには、他人のことを考えなければならない。

「恕」を知らないと、優秀な社員も、取引先も、ひいては顧客も集まりません。ちゃんと読んでいる初代は、自分のことより社員のほうを大事にし、待遇や給料など手厚く面倒を見たから会社は大きくなった。

でも、二代目以降のサラリーマン経営者は『論語』を読まないのでしょう。気がついたときには不合理なピラミッド型の組織と派閥の服従関係ができあがり、派閥同士がせめぎ合って下す決断も合理性とは程遠い代物。情報伝達も上から下への伝言ゲームみたいになってしまうから、組織の下のほうはバカになっていく。

「由らしむべし、知らしむべからず」という言葉は、昔の軍隊では「部下にはいろいろ教えるな、上が全部把握していればいい」と解釈されていました。今は違う解釈が一般的ですが、昔はそれでもよかった。

要は「知っている人」が一番強いわけですが、今は下にいる者のほうが情報に精通しています。ITというのは本当に凄くて、組織の下が上よりも「知る」ようになり、上が何も知らないバカだということを見抜いています。現場の情報を斟酌することに長けた偉いトップもいますが、経営トップの回転の遅いギアに、若手の高速回転のギアを繋げたって、ゆっくりとしか回れない……これがおおかたの大組織の現状でしょう。

ピラミッド型の組織は、内部にクローズされた情報を何でもオープンにしていくことで凄い合理化ができますよ。その意味で、不合理な制度の最たるものは、報奨金や退職金として経営幹部に支払われる給料の後払い。若い頃に死に物狂いで働いた年寄り連中がその分を今貰っています。21のやり方を他社が取り入れようとしたら、その分がチャラになる。若手以外から物凄い抵抗を受けるはずです。

しかし、ほんとの優秀な経営者だったら、会社をどこかでリセットすべき。それには会社を左前にするか、新会社をつくったほうが早い。でなければそれこそ「恕」の心で、経営幹部の何人かが自ら犠牲になればいい。不可能ではないと思います。

※すべて雑誌掲載当時

(西川修一=構成 吉川 譲=撮影)