「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (15) 「バンガードのような運用会社を日本に創りたい!」目指すべき”お手本”発見

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バンガード日本法人(バンガードインベストメンツジャパン)の事務所は渋谷駅から10分ほど歩いた閑静な場所にひっそりとありました。

世界最大級の運用会社としては正直びっくりするほど質素なオフィスです。

加藤隆さんはその頃同社の代表に就任されたばかりで、実は紹介して下さった外資系投信会社の社長さんと加藤さんは元同僚、彼曰く加藤さんがバンガード日本のトップに就かれたことが、千載一遇の機会の到来だと直感して、私を連れて行って下さったわけです。

3人で各々自己紹介などしつつ、私が温めて来た事業構想と目指す目標を思いを込めて加藤さんにお伝えしました。

加藤さんは終始冷静にしっかりと話を聞いて下さりましたが、だんだんとにこやかになり、我が国における既存金融業界の現状認識と問題意識が共有されていくとともに、加藤さんご自身の思いも熱く語られました。

その話し振りは至極ロジカルで、投資信託の本来在るべき考え方についてもはっきりとご自身の理想を持っておられる、そしてそのベクトルは私のそれと合致していました。

期待以上と言える意気投合でした。

帰り際には優しい笑顔で「素晴らしい出会い」だと言って下さいました。

私にとっても本当に素晴らしいご縁でした。

何より私が尊敬するバンガード社の日本代表から共感を得られた喜びは、自分の思いが決して間違っていないということの自信にもつながって、忘れられない日となりました。

もっともその日は意気投合が得られたに過ぎず、運用業界のエスタブリッシュメントであるバンガード社への具体的事業提案はこれからです。

理想のパートナーであることは確信できても、気宇壮大とも言えるこの取り組みは勿論やさしくないことはわかっていました。

バンガードは世界最大級の運用会社でありながら、日本では一般的にあまり知られた存在ではありませんでした。

私もそれまでバンガードについては憧れ尊敬してはいましたが、インデックスファンドの元祖であり、チャールズ・エリス氏の「敗者のゲーム」やバートン・マルキール氏の「ウォール街のランダムウォーカー」に在る運用理論を実践して、独自の地位を築いた特異なる運用会社である、という程度の知識でした。

ところが加藤さんからその成り立ちから今に至るまでのレクチャーをいただき、深く知れば知るほど、既存の運用会社とは全く違う、独自の価値観と正義を堅固に貫く、良い意味での非常識極まりない、されど本来在るべき理想の運用会社だとわかりました。

バンガードは1975年にジョン・ボーグル氏が創業した米国の独立系運用会社で、現在の運用資産総額は1兆6千億ドル超と世界最大級で、日本の公募投資信託全体の倍以上もの規模を誇っています。

そして同社の運用哲学は「長期・分散・低コスト」。

この理念を徹底して貫いています。

とりわけコストは業界他社の追随を全く許さない低水準で、ボーグルさんは運用資産が積み上がって利益が出るようになる都度、どんどん運用報酬を引き下げていったのです。

それを可能にしたのは会社の所有構造です。

バンガード社は株主が自社のファンドなのです。

各ファンドがちょっとずつバンガード社の株式を保有している、つまり顧客である投資家が株主であることと等しい仕組みを作ったのです。

従って顧客=株主ですから、利益相反なく低コストが実現できたわけです。

これは画期的で、まさに運用会社として顧客志向を実践出来る理想的な形態です。

今もって他に例を見ないスタイルの会社なのです。

バンガードはインデックスファンドを中心に、運用資産が増えるたびコストを下げ続けて、圧倒的な低コストで顧客支持を拡大させ、とうとう世界最大規模の運用会社になりました。

私が目指したいのは本当に顧客・投資家のための運用会社ですが、バンガードはまさにその理念を実現させ、驚異的ビッグビジネスになったのです。

「バンガードのような運用会社を日本に創りたい!」。

私の目指す先にハッキリと理想的な”お手本”が見つかりました。

さてその後、加藤さんと2度・3度と会合を重ねるにつれ、加藤さんというリーダーの人間性に触れて信頼が積み上がりました。

同時にバンガード社の企業哲学・理念が把握できて行くうちに、このパートナーシップはきっと実現できるという確信が強くなってきました。

それはバンガード社の日本におけるビジネス展開の実状と、その理由をはっきりと理解したからです。

実はバンガードが日本でのプレゼンスが決して高くないのは、同社が頑なに貫く美徳とも言えるある企業ポリシーゆえだったのです。