船体を岸壁につないでいたもやい綱が解かれた。その時、発電機担当から連絡があった。「電圧が落ちています。発電が不安定です」――。故障を抱えたまま出航するのか。しかし、任務の予定は変えられない。指揮官は躊躇(ちゅうちょ)した。その時、ひとりの士官が自信たっぷりに言った。「計画通りに出航しましょう。故障は直せます」――。

 中国の解放軍報が中国の潜水艦「長城200」の航海についてのルポルタージュを掲載した。日時などは明らかにされていないが、ミサイル発射試験のための航海だったとされる。

 「長城200」はソ連から供与を受けた実物艦と設計図をもとに1966年に作られたとされる。原型は1958年から就役を始めた旧ソ連のゴルフ型潜水艦だ。現在も弾道ミサイル発射試験艦として現役だ。

 出航と同時に、修理方法を巡る会議が始まった。1分1秒を争う事態だ。各電力ケーブルの末端を確認して処置する案が出された。技術担当者の多くは納得できなかった。口角泡を飛ばしての激論になった。結局、案どおりに進めることになった。

 旧式のディーゼル推進艦なので居住環境は劣悪だ。工作班が汗だくになって作業を続けた。しばらくして、故障を直すことに成功した。電圧は安定を取り戻した。

 同艦の電気系統の責任者は婁飛(ろう・ひ)一級軍士長だ。この日も、修理を終えて機械室から出てきた。軍服は油だらけ、顔は汗まみれだ。

 婁軍士長はとにかく仕事熱心で、研究熱心だ。いつもノートを持ち歩いている。ノートには、艦の電気系統に関する図や注意事項がびっしりと書き込まれている。すべては、弾道ミサイルの発射試験を成功させるためだ。これまでに、連続して22回の発射試験に参加した。重大な故障を解決したことだけで二十数回ある。

 婁軍士長が自分の経験を元に作成した「主要ケーブルの漏電と温度上昇計測システムについて」という手引書で、潜水艦における電力ケーブルの寿命と安全性が向上したこともあるという。(編集担当:如月隼人)