奥様はコマガール (57) 専業主婦になることの罪悪感と日本人の国民性

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去る6月末日、それは夫婦共働きの山田家にとって大きな変革の日であった。

妻のチーがそれまで勤めていた会社を円満退職したのだ。

直接的な退職理由は、今春以降のチーがどういうわけか体調を崩すことが多くなったからだ。

月に数回のペースで発熱に悩まされ、仕事と家事の双方ともが疎かになりがちだったため、家族会議の結果、ここらへんで仕事をやめて体調管理を優先しよう、すなわち生活リズムを改めようということになった。

なお、今のところチーが新たな別の仕事を始める予定はない。

要するに、これにてチーはいわゆる専業主婦になるということである。

もともと、僕らの中では以前からその予定だった。

近い将来、子供だって欲しいことを考えると、いずれはチーに家庭中心の生活を送ってもらいたい。

チー自身もそれを望んでいたため、今回の件がちょうどいいきっかけとタイミングになったわけだ。

金銭的には確かに痛い。

これからはチーの給料分がなくなるということを踏まえたうえで、最低限の生活ができるよう金策に励まなくてはならない。

もちろん、それは僕の仕事である。

チーに対しては「金ならなんとかなる」とは言わなかったが、「金ならなんとかする」とは言った。

いささか見切り発車な感じもするが、今はチーの体調優先だ。

かくして7月以降の山田家は、世間で言うところの夫婦共働きではなくなった。

チーは専業主婦として家事に勤しみ、僕は執筆業を中心に、そこから派生した様々な仕事に励んでいる。

これによってチーの精神的負担もずいぶん軽くなることだろう。

と思いきや、実際はそうでもなかった。

会社を辞めた当初のチーは、それまで何年間にもわたって当たり前のように継続していた「仕事をして給料をもらう」という生活がパタッと終わったことに対する奇妙な違和感を覚え、どうにも気持ちが落ち着かなかったという。

仕事をしていない自分に、ある種の罪悪感があったのかもしれない。

また、会社を辞めるときに、それまで共に机を並べてきた同僚女子や、その他の女友達から「いいなあ、専業主婦。

わたしも楽になりたーい」などといった羨望の言葉をかけられたことも、チーの中の罪悪感を微妙に刺激したのだろう。

専業主婦は世間一般から気楽な存在だと認識されていることに気づき、心がモヤモヤしたらしいのだ。

これはまさに勤勉と評される日本人の性である。

もちろん個人差はあるものの、一般的に多くの日本人は、世界的に見ると非常に真面目で働き者だとされている。

大昔から質素倹約、節度節制、禁欲、勤勉というストイックな精神を美徳としてきた歴史があり、「働かざるもの食うべからず」をモットーに驚異的なスピードで戦後復興を果たした誇りが、日本人のDNAには刻まれているのだろう。

日本人は働くことが好きなのではなく、楽をしながら怠惰に気ままに暮らすことを、笑って肯定できない国民なのだ。

それを証拠に、宝くじにまつわる興味深いエピソードがある。

某調査機関が「もし宝くじで数億円当たったらどうする? 」というアンケートを日本で行ったところ、第1位は「家を購入する」で、実に半数以上もの割合を占めたという。

その他には「貯金する」「世界一周する」「別荘を買う」といった回答が目立ち、男性に限って言えば「会社(店)をおこす」という回答も少なくなかったらしい。

一方、同じアンケートを欧米でも行ってみたところ、第1位は80%以上もの圧倒的な割合で「仕事をやめてのんびり暮らす」だったとか。

欧米の人々にとって働くということはあくまで金銭を得るための手段でしかなく、その金銭が手に入るのなら、わざわざ働く必要はないということだ。