ボスコン流問題解決−【2】高額商品の企画

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変革が相次ぐ現在のビジネスでは考え続けることが求められる。ビジネスに有効な考え方とは何か、問題解決のプロフェッショナルにその真髄を聞いた。

会社から、利幅の大きい高額商品を企画せよと命令されたとしよう。実はここでも重要なのは論点の設定だ。「どのような商品なら高く売れるか」と論点を設定すると、高額商品が容易に売れないデフレの壁にぶち当たる。この難問に取り掛かる前に「本当に高額商品が必要なのか」と疑ってみることが大切だ。

会社から論点を与えられたときには、まず論点の目的を考えたほうがいい。高額商品を企画する目的はさまざまだが、ここでは、もともと「下がり続ける利益率を改善したい」という経営陣の要望から始まった話だったとする。ならば、利益率を改善する手段はほかにもある。例えば生産や流通を見直したり、先に述べたように市場を深掘りして売り上げを増やせば、利益率の改善は可能だ。

これをイシューツリーで構造化すると、上位概念である「利益率の改善」が大論点で、そこに「高額商品の企画開発」「サプライチェーンの見直し」「既存市場の深掘り」などの中論点が連なる形になる(図2)。このように構造化すると、利益率改善につながるならば、必ずしも高額商品の企画開発にこだわらなくてもいいことがわかる。あとは中論点のうち、解決しやすい論点、あるいは解決したときの効果がもっとも大きい論点を選んで取り組めばいい。

状況によって解くべき中論点は異なるが、現在のデフレ状況を考えると、高額商品の企画開発は筋が悪いように思う。

飲料メーカーのサントリーは、複数のウイスキーブランドを抱えて、個別にマーケティング投資を行っていた。しかし、若者のウイスキー離れが進んで市場が縮小すると、個別のマーケティング投資は効率が悪く利益を圧迫する。そこで「角瓶」に一点集中してマーケティングを展開。コマーシャルに女優の小雪を起用して、昔懐かしいハイボールを若い層にも浸透させた。

同社が本当に売りたいブランドは高額商品の「山崎」や「響」だろう。ではなぜ高額ブランドではなくリーズナブルな「角瓶」に投資を集中させたのか。それは、いま消費者は価格訴求型の商品を望んでいるからだ。いくらこちらが付加価値に自信があっても市場のニーズと合致しなければヒットは望めない。その点、「角瓶」は価格が手ごろなうえ、ソーダ水で割るハイボールという飲み方も経済的で、現在の市場のニーズとマッチしていた。同社が一点集中の対象に高額ブランドを選ばなかったのは賢い選択だったのかもしれない。誰にとっての論点か明確にする

もちろん高額商品でも、市場のニーズと合っていればいい。しかし、企業は往々にしてシーズから企画開発を行い、需要喚起しようとして失敗する。アップルの「iPad」や「iPod」のような成功例もあるが、一般企業にとって、あれほどのイノベーションは狙ってできるものではない。仮に高額商品の企画開発が必須だとしても、自社のシーズと市場のニーズの棚卸しを行い、両社のANDを取っていく戦略が必要だ。

いずれにせよ、ほかにも中論点があるなら高額商品の企画開発に縛られる必要はない。指示された論点を鵜呑みにして足踏みするより、もっと筋のいい論点に取り組み、「利益率の改善」という大論点を解決したほうが、会社にも有益なはずだ。

ただ、このとき注意すべき点が2つある。論点は人や立場によって違うことだ。「高額商品の企画開発」という論点があったとき、その上位概念である大論点は「利益率の改善」かもしれないし、「ブランド力の向上」の可能性もある。それを自分で勝手に判断すると、誤った大論点を解くこともありうる。上司に真意を確認するとしても、直属の上司とさらにその上の上司で論点が異なる場合がある。コンサルティングの現場でも、経営の上流にインタビューしてようやく本意がわかったというケースは少なくなかった。

そもそもビジネスは、人が抱えた問題を解決することに本質がある。自分の問題をいくら解決しても報酬は発生しない。社内の課題も、その延長線上にある。自分に課せられた問題は、いったい誰にとっての論点なのか。大論点を明確にするためには、まずその見極めが肝心だ。

論点を整理するイシューツリーは虫食いでもかまわない。論点を見極めようとすると、おそらく最初は複数の論点が、大論点なのか中論点なのか、あるいはより具体的な小論なのか判然としないまま、バラバラに浮かび上がってくるはずだ。それらを整理して全体像をつかむために構造化するわけだが、問題がごく単純な場合を除き、最初からきれいなツリーになることはほとんどない。そこでツリーの完成にいつまでもこだわっていると、問題解決が遅くなる。構造化の目的は、全体像から自分が取り組むべき論点を導くことである。完璧なツリーにこだわるより、先に進むべきだ。

(早稲田大学ビジネススクール教授 内田和成 構成=村上 敬)