多くの書店でベストセラーのランキング入りしている『媚びない人生』のジョン・キム氏。韓国に生まれて日本に国費留学、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等3大陸5カ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者が著したのは、ゼミの最終講義で卒業生に送ってきた言葉をベースにした人生論だった。キム氏の友人でもある、元ソニー会長で現在はクオンタムリープの代表を務める出井伸之氏との対談の後編をお届けします。今、2人が若者に伝えたいメッセージとは。(取材・構成/上阪徹 撮影/石郷友仁)

社会の常識は、うさん臭いもの

出井 一生の恩人、というフランス人が僕にはいるんですね。ちょうど10歳くらい年上で、今も元気なんですが、フランス駐在をしていた20代のとき、彼に言われたことがあったんです。「どうしてあなたは人のネガティブなところから物事を見ようとするんだ。逆にポジティブなところから見ようとしなさい」と。

 心理学を学んだ医者だったんですが、実はこの出会いは、僕の人生を変えるほどのインパクトを持ったんです。日本人って、なんでもすぐにネガティブから入ろうとするでしょう。でも、だからこそ、あえてポジティブから入っていく意識に大きな意味があるんです。そうすることで、目の前のものが、人と違って見えてくるから。

 見方が一方的ではなくなるんですよ。人と違うモノの考え方ができるようになるということです。そしてそういう見方は訓練すれば誰でもできるようになるんです。

キム これは『媚びない人生』に書いたことですが、社会的な真実というのは、極めて気まぐれで、うさん臭いものですよね。常識もそうですが、世の中の人々は自分の置かれた状況の中で、自分の利害の中で判断をして、正解や真実を作り出しているに過ぎない。実際、社会的真実は複数あったり、共存しています。そして海外に出れば、国によって真実が異なる。世の中には、ひとつの正解などない、と確信しました。

出井 僕は若い頃、フランスで苦労したけれど、どうしてかといえば、フランスのロジックがまったくわからなかったからです。日本人の見方で見ていたから。ソニーも早くから世界に出て行ったので、アメリカ的な見方を徹底的に鍛えられることになった。日本人の見方という枠内でくくりきれない世の中があるというのを、見てしまったんですね。

 実際、同じ物事を解決するのだって、日本人とフランス人とアメリカ人とでは、まったく違うプロセスを踏みますから。フランス時代、どうしてこんなにわざわざ難しいやり方を選ぶんだろう、と不思議でならなかったりした。結果もうまくいかなかったり。でも、後から考えれば、それは実は天才的なやり方だったりするわけですよ。

 物事をポジティブに見ることも含めて、そのプラス面を前面に出すことによって、フランスという国からは、あれだけの世界に冠たるトップブランドが次々に生まれているんだと改めて思うんです。世界トップの役人とかね。

 だから、こんなに日本と違うのか、というのは、僕にとって本当に面白い体験でした。そして、こういう僕の話を、一番喜んでくれたのが、盛田昭夫さんだったんです。あいつはヘンなことばかり言っている、と聞いてくださって。『メイド・イン・ジャパン』でも名前入りで書かれましたからね(笑)。

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