ボスコン流問題解決−【1】市場が縮小している

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変革が相次ぐ現在のビジネスでは考え続けることが求められる。ビジネスに有効な考え方とは何か、問題解決のプロフェッショナルにその真髄を聞いた。

市場が縮小して、自社の既存商品が売り上げ不振に陥っているとする。このとき売り上げ減を食い止めようと、値下げして競合からシェアを奪おうとする企業が少なくないが、賢い戦略とは言えない。縮小しつつある市場で顧客の奪い合いをすれば、価格競争が始まったり、営業費が膨らみ、消耗戦へと突入していく。成長市場なら利益率低下を売り上げ増でカバーできるかもしれないが、全体のパイが小さくなる衰退市場では、それも望みづらい。

なぜ多くの企業が最善とは言えない戦略に飛びつくのか。それは市場縮小を運命と捉え、あきらめに似た心境に支配されているからだろう。自分では如何ともしがたい環境に放り込まれると、人は思考停止に陥ったり、やぶれかぶれの策に身を委ねる傾向がある。その結果、座して死を待つか、一か八かに賭けるかという極端な二者択一に陥り、追い立てられるようにして「他社の客を奪うためにはどうすればよいか」という論点(解くべき問題)を設定してしまう。

しかし、間違った問題、正解しても実りの少ない問題をいくら解いても、成果は上がらない。大切なのは論点が一つではないことに気づき、その中から自分が解くべき論点を見定めることである。そのためには視野を広げて論点を捉え直す必要がある。

視野を広げれば、そもそも市場縮小という前提条件さえ怪しくなる。有名なT・レビットの論文によれば、アメリカの鉄道業が衰退したのは、自分たちの事業を鉄道業と狭く定義してマーケティング・マイオピア(マーケティング近視眼)に陥ったからであり、輸送業と定義していれば、市場は縮小しておらず、打つ手がいろいろとあったということになる。例えば通常の店舗で顧客が減っていても、それは顧客が通販やネットに流れただけかもしれない。自分たちのビジネスの定義を変えれば、市場はいまも成長を続けている可能性もあるのだ。

フレームワークを活用して論点を整理してもいい。例として、アンゾフの成長ベクトルを用いて考えてみよう。経営学者のアンゾフは、市場と製品の二軸を既存/新規で分けることで、企業の成長戦略を「市場浸透」「市場開発」「製品開発」「多角化」の4つに分類した(図1)。

一番わかりやすいのが左下の「市場開発」である。例えば日本市場が縮小するので、同じ製品を成長市場である中国へ持っていこうというのがこれである。右上の「製品開発」は、自分たちが持つ既存の顧客や市場に対し、新しい製品を投入する戦略である。スターバックスがコーヒー以外の食事のメニューを充実させ、ソニーが家電製品のユーザー向けに保険や金融商品を販売するのもこのボックスである。

■フレームワークによる分析

一方、自社が手掛けてこなかった新しい商品やサービスを新しい市場に展開する戦略を「多角化」という。一般的に新規市場への落下傘的な展開はリスクが高く、どちらかというと失敗例のほうが多い。

残る一つ、既存商品を既存市場に向けて展開する戦略が「市場浸透」だ。既存客に既存商品を売るだけでは、競争激化を招くだけでいいことがなさそうだが、実はいくらでもやりようはある。

少々古い話だが、1979年、時計メーカーのセイコーは「なぜ、時計も着替えないの。」とコマーシャルを打った。それまで時計は一生もので、一人一個あれば十分だと考えられていたが、このコマーシャルで一人が時計を複数持つスタイルが広がり、同社は売り上げを伸ばした。既存客・既存商品でも、市場を深掘りすれば売り上げを増やすことは可能なのだ。

既存市場の深掘りとしては、ブランドロイヤルティを高めて顧客生涯価値を上げたり、プリンターメーカーがインクで稼ぐように、同じ顧客からアフターサービスやオペレーションで何度も稼ぐこともできる。これらの戦略は、新規市場の開拓や新製品の開発と違い、既存のリソースが活用できリスクも少ない。

このようにフレームワークを活用すれば、視野が広がり、顧客の奪い合い以外にもさまざまな選択肢があることがわかる。どの戦略が最適なのかはケース・バイ・ケースだが、少なくても複数の選択肢があると知ることで、「値下げして他社の客を奪うべきだ」と短絡的に飛びつくことは避けられる。

ちなみにフレームワークにもさまざまな種類があり、これさえ覚えておけば万能という類のものはない。フレームワーク自体はロジカルな思考だが、フレームワークの選び方は直感的であり、経験の蓄積がモノをいう。蓄積ができないうちは、数をこなして自分の引き出しを増やすべきだろう。

いずれにしても、ほかに道がないと思えるときほど、フレームワークなどを用いてほかに選択肢がないかどうかを冷静に検証したい。

(早稲田大学ビジネススクール教授 内田和成 構成=村上 敬)