"バチスタ手術"という言葉を知っている人は多いはず。

 2006年に刊行され、08年には映画化もされた作家・海堂尊の『チーム・バチスタの栄光』で、バチスタ手術は一躍世間に知られるようになりました。心臓の筋肉が弱り血液が流れにくくなる拡張型心筋症の治療法として心臓の一部を切り取るこの手術。1994年にブラジル人医師のランダス・バチスタによって行われ、日本では1996年に須磨久善医師が初めて実施しました。

 実は、この須磨氏、映画『チーム・バチスタの栄光』の医事監修も務めている心臓外科医の権威。その技術は「神の手」とも称され、自身がモデルとなった小説『外科医 須磨久善』(海堂尊著)はテレビドラマにもなりました。そんな須磨氏が、バチスタ手術と出会った1995年からこれまでの日々を自伝的小説『タッチ・ユア・ハート』に描いています。

 本書では、イタリア在住中の生活やバチスタ手術に出会った経緯などを赤裸々に綴っています。なかでも日本初となるその手術で患者が亡くなってしまったあとの苦悩は、読んでいる人にも命の重さとその重圧が切実に伝わってきます。

 「CARPE DIEM(今日を大切に生きよう)」

 手術は、成功したとはいえ、結果的に患者を亡くしてしまった初手術。後ろ向きになっていた自分を立ち直らせたのは、古代ローマの抒情詩人ホラティウスの詩に出てくるこの言葉でした。

 「過去や未来に臆することなく、今、目の前にある問題に集中して全力を傾ける。それが大切なのだ。私の心の中に漂っていた霧が、一陣の風と共に消え去った」

 こうして2度目のバチスタ手術に踏み切り、今では日本中にこの術式を普及させるに至りました。バチスタ手術やバイバス手術の改良など、命を救うため多くの挑戦をしてきた須磨氏。本人は作中で、「外科医の手は、神の手ではなく神に祈る手なのだ」と言います。  

 しかし、本書を読めば、それは祈るだけではなく、「熱い情熱を宿して努力するための手」だということが伝わってきます。



『タッチ・ユア・ハート』
 著者:須磨 久善
 出版社:講談社
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