2千人以上の女性を手籠めにしてきた色男、真の愛に目覚めてしまった高級娼婦、ひと目ぼれした女のために命をかける情熱的な男、冷酷非道なお姫さま......。

 これらは、『ドン・ジョヴァンニ』や『椿姫』などといった有名なオペラの登場人物たち。彼らがもし現代に生きていたら、ワイドショーのレポーターに追っかけられそう。オペラを高尚な舞台作品だと思っていた人には、少し意外な「キャラの濃さ」なのではないでしょうか。

 いま例に挙げたドン・ジョヴァンニは、性豪でハンサムという設定。世渡りが上手く世界の女性を愛します。婚約者がいようが、結婚したばかりであろうが、彼はまったく気にしません。あるとき、自分の娘、ドンナ・アンナをかどわかされた騎士長はジョヴァンニを追い、逆にジョヴァンニに殺されてしまいます。物語後半、アンナの父は幽霊となって現れ、ジョヴァンニに改心を迫ります。それが聞き入れられないことがわかった彼は、ジョヴァンニを地獄へ連れていくことを決意。そして、話はクライマックスへと向かいます。
 
 "ぶっとび系"の登場人物に、ダイナミックなストーリー展開......。いまのテレビドラマでは味わえない魅力をもっているのがオペラだといえましょう。さらに、作曲家の青島広志さんは、『オペラへご招待!』のなかで、オペラ作品には、"つっこみどころ"が多いことを指摘しています。たとえば、「体を何カ所も刃物で刺されて出血多量とか、肺結核で余命いくばくもない状態で、大アリアが歌えるだろうかと、冷静に考えればおかしなことだらけなのです」(「アリア」とは、独唱曲のこと)。これもまた、オペラの意外な一面といえるでしょう。

 本書は、青島さんの解説だけではなく、「トキワ荘」出身の漫画家水野英子さんが超有名なオペラ作品10本について、見どころや名場面を漫画で描いています。ご本人いわく、「数時間もかかるドラマをわずか6ページにまとめなければならないのは大変」だったとか。その苦労はきちんと本書に表れていて、読者にとってはとてもわかりやすく、水野さんの劇画調の絵がオペラのドラマチックな表現方法と非常にマッチしています。 

 200年以上も演じつづけられている作品の数々。オペラ初心者も、そうでない人も本書を読めば、普遍的なテーマへの美しいアプローチと人間なら誰しもが感じる万国共通の感動を知ることになるはずです。





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