米軍から提供されていた福島第一原発周辺の実測汚染データは日本政府に放置されていた

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『朝日新聞』は今年6月18日付の記事で、福島第一原発事故の発生後、米国から提供されていた「セシウム汚染」の状況を表した実測地図を日本政府が放置していたことをスクープした。

この「セシウム汚染地図」は、在日米軍が原発事故発生直後から測定し続けていたデータを、「GIS」(Geographic Information System:地理情報システム)というソフトウェアを使って解析したもの。GISとは、大規模な環境汚染をともなう事故や災害が発生した際に、「主な汚染物質」「高濃度の汚染範囲」「時間ごとの推移」といった情報と、緯度・経度や地形などの地理情報を組み合わせてひとつの地図上に表示し、高度な分析や迅速な判断・対応を可能にする技術だ。

GISのソフトウェアは無料でダウンロードすることができ、ハードウェアの高性能化&低価格化が進んだこともあって、今や世界中で普及している。日本においても1995年の阪神・淡路大震災を契機にGISへの本格的な取り組みが始まり、2007年にはGISを高度に活用していくことを最大の目的とした「地理空間情報活用推進基本法」(略称・NSDI法)も制定された。

同記事では、地図とデータが米国での公表よりもひと足早く、昨年3月18日と同20日の計2回、原子力安全・保安院と文部科学省に送られていながら、それが放置され続けてきたことを問題視し、情報が住民避難にまったく活かされなかったことを批判していた。しかし、残念ながら問題の本質はそこにはない。

最大の問題は、保安院や文科省にGISデータを読み解ける者がいなかったことである。法律まで制定して活用を目指したのにも関わらず、日本政府のエリートたちはこのデータの使い方を知らなかったのだ。

霞が関の役人の中には、GISのソフトウェアで読み込まなければなんの意味も持たない膨大なデータを、なぜか紙にプリントアウトしてにらめっこしている者もいたという。そしてマスコミの敏腕記者たちもまた、同様にこの貴重なデータをまったく使いこなせていない。挙句の果てには、軍事機密でもないのに“暗号”呼ばわりされているありさまだ。

米国政府が、昨年10月から測定場所と放射性核種の測定値、測定日時を盛り込んだ「生の測定データ」をインターネット上で一般公開し続けている理由もそこにある。日本の政府機関やマスコミが信用できないため、データを直接配っているわけだ。

GISでの利用を前提としていることが、日本において米軍の測定した放射能汚染データを理解し、活用する上での“壁”となった。その結果、日本国民がこの貴重な情報を知る機会は、福島原発事故発生から1年以上が過ぎた今日まで、ついになかった。「GISを高度に活用していく」というNSDI法が、聞いて呆れる。

(取材・文/明石昇二郎とルポルタージュ研究所)

■週刊プレイボーイ32号「政府が黙殺した米軍データ 『福島汚染地図』を完全解析!」より