読む鉄道、観る鉄道 (13) 『カサンドラ・クロス』 - 細菌兵器に感染したヨーロッパ国際特急の運命
こうしたロケ地の都合は、映画ではよくある話。
しかし、架線のない線路を電気機関車が走り続ける場面はいただけない。
せめてパンタグラフを上げてくれたらよかったけど、残念ながら2基ともたたまれている。
列車の安全装置についても、この状況なら全車両にブレーキがかかるはず……、という場面がある。
撮影に使われた列車の編成は荷物車、1等座席車、寝台車、食堂車、2等車、最後尾にも緩急車を兼ねた荷物車らしき車両がある。
惜しい。
また、密閉隔離された列車は、窓の外から目隠しの板を取り付けられてしまうけど、これもラストシーンの車両ではなくなっている。
疑い始めるとキリがない。
セリフではこの列車に1,000人の乗客がいるという。
食堂車と1等寝台個室を含めた数両の客車で1,000人は多すぎる。
ちなみに東海道新幹線の700系16両編成の定員が約1,300人だ。
カサンドラ鉄橋が危険だという乗客の証言で、「危険な橋だから下に住んでいた人は逃げ出した」と言うのだが、鉄橋の下は川。
逃げた人々はどこに住んでいたのだろう? そもそも、列車は隔離されたけど、国際保健機構の窓ガラスが割れたのなら、ジュネーブの人々も感染したはず。
海外の映画評サイトを見ると、列車のルートも不自然という指摘があった。
撮影に協力したスイス国鉄は、同社が陰謀に加担したように描かれたとして激怒したという。
おそらくは鉄道描写の甘さも不満だったのではないか。
鉄道ファンはつい意地悪なツッコミをしてしまうわけだけど、それらも鉄道映画を観る楽しみのひとつ。
こうした部分を割りきってしまえば、この映画が持つテーマ「大国の陰謀の恐ろしさ」「生命の尊さ」がひしひしと伝わってくる。
ラストシーンでは機密保持の残酷さが描かれるが、同時になぜこの映画でジョナサンを著名な精神科医に、元妻のジェニファーを流行作家にしたかを考えてみよう。
「きっと正義は行われる」と期待できるはずだ。
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