2012年の上半期が終わった時点で、私の中では“今年一番の映画”になった作品を紹介します。ノーベル平和賞受賞者、アウンサンスーチーの激動の半生を、夫との深い愛を中心に描いた心揺さぶる感動作です。

「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」
 軍事政権が長く続いたビルマ(現ミャンマー)で、民主化運動のリーダーとなり、1991年にアジア女性として初のノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチー。彼女は、かつて“The Lady”と呼ばれていました。軍幹部に危険視され、国民は実名で呼ぶことがはばかられていたためです。

 通算15年という長い間、自宅軟禁生活を強いられながらも、非暴力による民主化と人権回復を目指すという、揺るがない強い意志を持ち続けたアウンサンスーチー。その陰で、彼女のイギリス人の夫は、ずっと妻を支え続けていました。最愛の夫や息子たちと引き離され、夫の死にも立ち会うことができなかった彼女の、知られざる愛の物語が、リュック・ベッソン監督、ミシェル・ヨー主演で映画化されました。

 1988年、イギリス・オックスフォードで、アウンサンスーチー(ミシェル・ヨー)は、チベット・ヒマラヤの研究をする夫マイケル・アリス(デヴィッド・シューリス)と、2人の息子と幸せな生活を送っていましたが、ビルマにいる母が心臓の発作で倒れたと連絡を受け、ビルマへ向かいます。

マイケルに子どもたちを頼んでビルマへ向かうスーチー
 ビルマでは、1962年のクーデターから続く軍事独裁政権に対する民主主義運動が活発化しており、スーチーは学生を中心としたデモ隊が軍に武力で制圧されているのを目の当たりにし、その惨状に呆然としてしまいます。

 スーチーは母を病院から自宅に連れ帰り、マイケルと息子たちもイギリスから見舞いに訪れます。そこへ運動家たちがやって来て、「ビルマの建国の父」と死後も多くの国民から敬愛されるアウンサン将軍の娘であるスーチーに選挙への出馬を求めます。スーチーは悩みますが、マイケルから励まされ、民主主義運動のリーダーとして立ち上がることを決意。

スーチーは祖国のために立ち上がり、数十万人もの人の前で演説を行う
国内を遊説するスーチーは行く先々で歓迎される
 ところが、反政府の動きを監視する独裁者ネ・ウィン将軍によって、マイケルはビザを取り消され国外退去に。息子たちもイギリスに戻り、家族と引き離されたスーチーは自宅軟禁を強いられます。

愛する息子たちと離れなくてはならないスーチー
 スーチー人気が高まる中、ネ・ウィンは彼女の仲間である国民民主連盟を激しく妨害。スーチーは心を痛めますが、どんなに圧力をかけられても、勇気を持ち続けて、信念を貫こうとします。

スーチーは銃口を向けられても、ひるまずに進み続ける
 孤独な境遇で闘い続けるスーチーの身を案じるマイケルは、ノーベル平和賞選考委員に彼女を推薦してもらうよう働きかけます。世界的に権威のあるノーベル賞を受賞すれば、各国がビルマ政府に非難の目を向け、スーチーの安全が確保されると考えたのです。

 マイケルの努力は報われ、スーチーはノーベル平和賞を受賞しますが、授賞式には出られませんでした。その後、6年間の自宅軟禁からスーチーは解放され、イギリスから駆けつけたマイケルと息子たちと感動の再会を果たしますが、家族と一緒にいる幸せは長くは続かず……。

自宅軟禁で授賞式に出席できない母の代わりにスピーチを行う長男
 1998年、再び自宅軟禁の身となったスーチーは、がんに侵されたマイケルと会えないまま、彼は帰らぬ人に。2人は心の底から愛し合っていたのに、引き裂かれ、それでもお互いを思いやり続けました。彼女のつらく切ない気持ちが、本作を見ると、痛いほど伝わってきます。

スーチーが強く美しい女性なのは、マイケルの深い愛情があってこそ
 家族との幸せを犠牲にし、祖国のために闘い続ける信念の女性、アウンサンスーチー。2010年11月13日、彼女が解放されたというニュースが世界に報じられ、ビルマ(1989年、当時の軍事政権によって「ミャンマー」と改められましたが、アウンサンスーチーはこれを認めていないことから「ビルマ」と表記しています)の情勢は、歴史的な変化を遂げようとしています。

 2012年、ついにスーチー女史は国政に進出。ビルマの民主化は世界各国から一定の評価を得ており、映画の続きとなる、スーチー女史の希望の物語は今後も続いていきます。

 いつも髪に生花を着けている、小柄で優雅なスーチー女史。彼女は本当に美しく、とても強い女性です。本作の脚本を読み、彼女に魅了されたというミシェル・ヨーは、“ビルマ”の人々から「本人そのものだ」と驚嘆されるほど、完璧にスーチー役を演じこなしています。

 6月26日、都内のヤクルトホールで行われた、ミシェル・ヨーとリュック・ベッソン監督の来日舞台挨拶を取材してきました。



 実際にスーチー女史に会ったというミシェルは、「初めて彼女に会ったとき、挨拶をしていいのか、深々とお辞儀をすればいいのか、どうしていいか分からず戸惑っていたら、彼女は大きく手を広げて私を抱きしめてくれました。本当に素晴らしいひとときを過ごすことができました」と感激した様子を語り、「彼女をアイコンとしてではなく、女性、2児の母、そして何よりも善き人として、みなさんにインスピレーションを感じていただきたいです」と、映画についてコメントしました。


 そして監督も、「ミシェルが彼女と会った数週間後に、私も会いましたが、自分が映画で撮っている『The Lady』(ミシェル)と、本物の“The Lady”(スーチー女史)が夢か現実か分からなくなるほど似ていて、彼女もまたミシェルそのものであり、非常に混乱して、シュールでした。人生、ビルマ、子どもについて語り合い、映画について聞こうと思っていたのに忘れてしまったと、後で思い出すくらい、パワフルな人でした」と、スーチー女史の印象を語ってくれました。

 「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」は、絶対に見るべき映画です。今なお、闘い続けているスーチー女史の真実を、ぜひみなさんに知ってほしいです。