日本のトンネル技術は世界一な話! トンネル掘削用シールドマシンとは!?




日本は狭い国土ですので、都市部では上下水道、通信、電力、地下鉄、道路、雨水貯留などのためにトンネルを掘らなくてはなりません。山岳部でも道路を通す、線路をひく、などの場合にはトンネルを掘らなくてはなりません。日本の都市部は不安定な柔らかい地下となっており、そこを地上に影響がないように掘る必要から、その技術は世界有数のものになりました。

日本が世界に誇るトンネル掘削技術、それに使われるシールドマシンという掘削機械について、日立造船株式会社、機械・インフラ本部、産業機械ビジネスユニットの花岡泰治さんにお話を伺いました。







トンネルを掘るために使われる巨大な機械、それが「シールドマシン」です。まずこのシールドマシンについてご紹介します。



■シールドマシンの仕組みの話



シールドマシンは通常は円筒状の形をしています。シールドは「盾」という意味です。盾で守られた円筒状のものを作り、その内部で掘削作業とトンネル構築作業を行うというコンセプトです。大きいものでは直径10メートル以上、小さいものでも直径2〜4メートルの円筒で、実際に見ると圧倒される大きな機械です。



穴を掘るため、円筒状の先端にはカッターヘッドと呼ばれる装置があり、タングステンカーバイド製の超硬合金のビットが規則的に一面に配置されています。これが回転して地下を削っていくのですが、削った土砂が、円筒先端からマシンの内部に入り、これを円筒の中から(トンネルの)外部へ運び出す仕組みになっています。このマシンを地肌に当て掘り始めます。



一定距離進むと、進んで空いた空間にブロックを組み立ててトンネルを延長、油圧ジャッキを使ってさらにマシンを前進させます。削る→壁面を組み立てる→前進、これの繰り返しでトンネルを掘って(作って)いくのです。



穴を掘る際に、先頭のカッターヘッドが地肌を掘削しているその部分を「切羽」(きりは)と言いますが、この切羽がシールドマシンの円筒内部から見えるタイプを「開放型」、切羽が見えないタイプを「密閉型」と呼びます。

昔は(技術的な面から)開放型のシールドマシンがほとんどで、円筒の中で人間が切羽に向かって人力で掘削する場合もありました。一方の密閉型では、カッターヘッドが付いている部分と円筒内部の間に「隔壁」が設けられており、円筒内部にいる人は切羽と隔てられています。現在では密閉型のシールドマシンがほとんどとなっています。安全ですしね。



■シールドマシンはフナクイムシを参考に作られた!



日立造船は、各種プラント、産業機械、建設機械などを手掛ける世界的な企業です。トンネルを掘るためのシールドマシンのテクノロジーは、日立造船の持つ自社技術で、設計、エンジニアリング、製作まですべて自社で行っています。今回お話を伺った花岡参事はシールドマシンに携わって30年の大ベテラン。



――シールドマシンはいつからあるんでしょうか?



花岡参事 初めて現場でシールド工法が使われたのは、1826年イギリスのテムズ河のトンネル工事が世界初だと言われています。日本で初めて使われたのは1920年の奥羽本線の折渡トンネルを掘る工事です。この時は工事は失敗しています。



――何があったのでしょうか?



花岡参事 地山の圧力に負けてつぶれてしまい、前進できなくなったと言われています。日本で初めてシールドでトンネル掘削が成功したのは1936年の関門トンネルです。



――かなり昔からあるんですね。



花岡参事 シールドマシンは「フナクイムシ」を見て考えられたと言われています。フナクイムシは木材を食べる生き物ですが、穴を掘ると、木材の膨張から穴を守るために樹脂状の物質を分泌して固めてしまうんですよ。

穴を掘る、固めるという作業をやって自分の巣穴を作るんですが、これがシールド工法の発明になりました。



――フナクイムシと同じ作業をシールドマシンがやっているわけですか。



花岡参事 そういうことになりますね(笑)。ちなみに考えついたのはイギリスのマーク・イザムバード・ブルネルという人です。



■シールドマシンは一点もの!



――シールドマシンは世界中の現場で働いていると思うのですが、1台のマシンをあちこちの現場に運搬して使っているのでしょうか? レンタルとかはあるのですか?



花岡参事 シールドマシンは国内では現場、工事ごとにそれに合ったものを製作するんですよ。より小さなマシンではレンタルもありますが。海外ではレンタルをしているメーカーもあります。



――えっ、工事ごとに違うシールドマシンなんですか? つまり一点ものですか?



花岡参事 そうなんです。というのは、トンネルごとに直径は違いますし、また掘る場所によって土の質、石、礫(れき)などの環境が違うものですから、それをすり合わせて最適なマシンを設計して製作しないといけないんです。



――それは大変ですね。



花岡参事 弊社では今まで1,200基以上のシールドマシンを製作してきましたが、1基ずつ全部違うマシンなんですよ(笑)。



■シールドマシンはトンネルになる



――トンネルを掘り終わったらそのマシンはどうなるんですか?



花岡参事 たいていの場合はトンネルになります。



――? トンネルになるというのは?



花岡参事 先頭のカッターヘッドの部分は円形に切り抜いて回収して廃棄、内部の機械は外して回収します。円筒状の部分は、内側からブロックで覆ってしまうとそのままトンネルの一部になるんですよ。



――なるほど。シールドマシンは最後にはトンネルの一部になってその生涯を終えるってことですか。



花岡参事 そういうことですね。日本の場合には、シールドマシンを回収するための大きな立て抗を作ることができないという理由もありますけども。大体シールドマシンはトンネルになって埋められています。



■世界に誇る日本の技術



――世界に誇れるものと聞いていますが、日本のシールドマシンの技術はどこが優れているのでしょうか?



花岡参事 カッターヘッドの微細な調整、地山の礫に合わせた細かいチューニングなど、その現場に合わせたマシン、最適なマシンを作る力、これは非常に優れていると思います。



――他にはどんな特徴がありますか?



花岡参事 切羽の安定性に優れているのも特徴です。日本ではとにかく静かにそっと掘らなくちゃならないという要求がありますので。地上への影響、地盤への影響を最小に抑えた工事ができるというのも大きなアドバンテージですね。



――非常に日本的な特徴ですね。



花岡参事 そうでしょうね(笑)。また最近では「工期の短縮」が声高に言われています。なので掘削のスピードを上げる努力もしています。



――普通はどのくらいのスピードなんでしょうか?



花岡参事 シールドの大きさによっても違うんですが。例えば小型のもの、直径が3〜4メートルクラスだと毎分5センチメートルぐらい。直径が6〜8メートルクラスだと毎分3センチメートルぐらいでしょうか。



――速いですね



花岡参事 そうですか(笑)。遅いって言われることが多いんですか……。



――毎分5センチメートルってことは1時間に3メートルですよね。直径3〜4メートルの穴が1時間に3メートルだったらそれは速いと思いますが……(笑)。



花岡参事 これを高速化していまして、小口径のもので毎分6〜8センチメートル、大口径のもので毎分5〜6センチメートルを達成できるようにしています。



――スゴイ。倍速に近いですね!



花岡参事 そのために、マシン全体のパワーを上げたり、カッタービット(刃の部分)を変えたり、なるべくスムーズに掘った土を排出するようにといったチューニングをしています。このあたりがノウハウですね。



■シールドマシン製作の魅力とは?



――花岡さんはシールドマシンに関して30年仕事をされていますが、その魅力は何ですか?



花岡参事 最初はとにかくでっかい仕事をしたくて会社に入ったんですよ(笑)。配属された時は、周りの人も「シールドマシンって何?」というような時代でした。あまり知られていなかったんですね。なので当初は自分も「?」という感じでした。



――なるほど(笑)。



花岡参事 シールドマシンっていうのはちょっと変わってまして、通常のものはほとんど1人で設計に携わるものなんです。製作に関してもずっと現場の人と話し合いながら進めます。で、できた物は一点ものという、マスプロダクト(大量生産の製品)ではあり得ない世界なんですよ。



――本当にわが子みたいなものなんですね。



花岡参事 そう言っていいかもしれません。それに、できあがったマシンで掘ったトンネルは歴史に残るというか、地図に残って、みんなが使うものになるわけです。



――普通の会社ではあり得ない製品ですね。



花岡参事 そうです。工場にマシンができあがった時に、外側を塗装して、施主、施工者さんの名前を書いて、みんなで写真を撮影するんですが、その化粧した姿は、トンエルを掘り出すと二度と見ることはできません。その意味では「はかない存在」でもあります。



――なんだか『はやぶさ』にも通じるような切ない話ですね。



花岡参事 そういったことができるのも、シールドが自社技術だからです。設計、エンジアリング、工場での製作まで、全部自社でできるからですね。なので仕事は面白いですよ。1人1基という形で仕事をしますので、弊社では20〜30基のシールドマシンを担当してきた人もいます。



――花岡さんは何基作られたのですか?



花岡参事 私は少ない方です。10基ぐらいです。大型のシールドマシンや、途中で作業の自動化などの仕事などをやっておりましたので。



――自動化も進んでいるんですか?



花岡参事 誤解がないように言いますが、現在のシールドマシンでは掘ることは、ほとんど自動化されています。自動で掘削を進めるようになっていますので、よっぽどのことがない限り、止めて、人力で何かするということはありません(笑)。



■世界最大のシールドマシンを製作中!



――今進行中のプロジェクトがありましたら教えてください。



花岡参事 2013年の5月から始まるシアトルの道路用のトンネル工事で使うシールドを製作中です。これは世界最大17.45メートルの直径です。



――それは桁はずれに大きいですね。どんな工事なんですか?



花岡参事 老朽化した高速道路の高架をトンネル化する工事です。約2.8 kmのトンネルを掘ります。



――シールドマシンは現地で作っているんですか?



花岡参事 いえ弊社の堺工場で作っています。完成したら、運べる大きさに分解して船で現地に送ります。その後、現場まで運んで、組み立てて使うんです。

――なるほど。花岡さんは現地に行くんでしょうか?



花岡参事 今、若い連中が一生懸命作ってるところですが、実際に現場で動くところは見たいですね。なにせ世界最大のシールドマシンですから(笑)。



日本のトンネル掘削技術、シールドマシンは世界一だと聞いていましたが、実際にお話を伺ってみると、非常に奥が深いものだとわかりました。みなさんトンネルに興味がわきましたか?





(高橋モータース@dcp)



日立造船株式会社のホームページ

http://www.hitachizosen.co.jp/