楽天が2年前の“公約”通り、社内の英語公用語化に踏み切った。世界一のインターネット企業を目指すためには英語でのコミュニケーションが必須との理由だが、旗振り役を務めた三木谷浩史会長兼社長の意気込みとは裏腹に、皮肉にもネット掲示板にはこんな刺激的な書き込みさえある。
 「頭のいい奴は英語なんかやらない。ノーベル賞の益川教授(京都大学名誉教授)が好例だ」
 「英語を日本語に訳せても、日本語がわかっていない社員がほとんどだ。何より母国語を大事にしない会社は終わりだな」

 もっとも三木谷社長は、そんな外野席の声はどこ吹く風。6月29日に東京・有楽町の日本外国特派員協会で行った講演会で「従業員の英語力は少なくとも英語を話すことを恐れないレベルになった」「まだスタート地点だが、もう通訳はいらない」と評価。この間の英語力アップ策について「昨夏まで従業員は自分で勉強するだろうと楽観していたが、多くが苦しんでいることを知り、無料の英語教室を始めるなどサポートした。英語を話せるようになることが、今すべき重要なプロジェクトだと示した」と、社を挙げての前のめり姿勢に言及。その“副産物”として「英語が嫌で辞めた社員もいるが、多くはない」と語った。
 実は三木谷社長、社内の英語公用語化に併せて講談社から『たかが英語!』を出版したばかり。根っからの商売人らしく、外国特派員協会の講演は、その宣伝を兼ねた「事実上のワンマンショー」(関係者)だった。

 もう一つ、ここへ来て三木谷社長が存在感をあらわにしたのが、経済団体『新経済連盟』の旗揚げだ。これは2010年2月にインターネット関連企業で結成した『eビジネス推進連合会』を、今年の6月1日付で名称変更した社団法人で、代表理事は三木谷氏。事務局も東京・東品川の楽天本社内に置いている。
 新経済連盟の設立に際し、三木谷氏は「インターネットのイノベーション(技術革新)を軸に政策を提言する経済団体。経団連に対抗するつもりはない」と強調したが、関係者は額面通りに受け取らない。三木谷氏が率いる楽天は'04年11月、当時の日経連(後に経団連に統合)に加入した。ところが昨年5月、東京電力福島第一原発事故の対応を巡って三木谷氏がツイッターで「電力業界を保護しようとする態度が許せない」などと噛み付いた揚げ句、経団連のガラパゴス化を痛烈に批判して退会した経緯がある。

 関係者が苦笑する。
 「楽天が経団連に加入したのは、プロ野球の近鉄バファローズとオリックスの合併問題が浮上したときです。当時、楽天と新規参入を争ったのがライブドアで、これを有利に運ぶには経団連加入の金看板があった方が有利と判断した三木谷さんは、奥田碩会長(当時)が一橋大の先輩という縁から加入を急ぎ、その思惑通り翌年に東北楽天ゴールデンイーグルスを発足させた。ところが'06年に奥田さんが会長を辞めた直後から彼は『活動内容が思っていたものと違う』と不満を漏らし始め、ついに“御用済み”とばかり飛び出した。そんな変わり身の早さを見せつけられた経団連の米倉弘昌会長は彼の旗揚げに『いちいちコメントしない』と不快感を示したのです」

 機を見るに敏というべきか、三木谷社長には“二番手”便乗のイメージが付きまとう。世間の耳目を集めたTBSの株買い占め騒動にしてもライブドア、村上ファンドによるニッポン放送=フジテレビ攻防戦に“触発”されたフシが強い。英語の社内公用語化また然り。こちらはユニクロを傘下に置くファーストリテイリングの英断に刺激された側面が否めない。それどころか、スタート間もない新経済連盟にしても「野心家三木谷社長のこと、いずれは経団連に取って代わろうとの魂胆では」と楽天ウオッチャーは指摘する。
 「会員企業は経団連の1494社には及ばないまでも、富士通、味の素などの有力企業を含め、既に779社に達している。経団連との重複加入が多いとはいえ、インターネット関連の新興企業には『我々の経済団体』との意識が強い証拠です。しかもネット関連はビジネスの裾野が広い。重厚長大産業が中心で、先細りが懸念されている経団連には不気味な存在でしょう」

 さらなる事業拡大にも余念がない。7月からはインターネットで注文した野菜、海産物、生肉などを自宅まで配送するネットスーパー『楽天マート』を始めた。主力の仮想商店街『楽天市場』では宅配を配送業者に任せてきたが、今後は“直営”にすることでヤマト運輸、佐川急便に対抗しようとの野心的戦略も。と同時に米アマゾンへの対抗心から、アマゾンと関係の深い医薬品などのネット販売会社、ケンコーコムを実質買収する奇策に打って出た。そのココロは「宿敵にダメージを与えるだけでなく、同社が積極的な東南アジア展開を図っているため楽天の英語公用語化が生きる」(関係者)ことにある。7月19日に電子書籍端末『コボタッチ』を発売するのも、アマゾンが端末の『キンドル』を日本で投入することへの対抗策にほかならない。
 「手当たり次第というのか、事業をバンバン拡大すれば何が本業か見えなくなってしまう。今は儲かっているからいいものの、これで歯車が一つ狂ったらどうなるか。スーパー業界のガリバーだったダイエーが凋落の一途をたどったのも、バブルに乗じた拡大戦略で墓穴を掘ったからです。ましてネット業界はバーチャルな世界。どこに落とし穴が潜んでいるかわかりませんよ」(経済記者)

 新経済連盟の旗揚げと英語公用語化の裏に、世の中が自分中心で動かなければ気が済まない三木谷社長の“慢心”が透けるようだ。