女性の起業、ヘルスケアを情報・資金面から支援。経済の活性化を目指す

WOMAN’S CAREER Vol.89

株式会社日本政策投資銀行 栗原美津枝さん

【活躍する女性社員】女性総合職1期生として入行以来、幅広い業務に携わってきた栗原さんの転機とは?


■女性の新しい視点でのビジネスに光を当て、長く、地道に応援していきたい

「会社や組織の中で女性がキャリアアップすることばかりが『女性の活躍』として注目されているのは世界の中で日本くらい。アジアも含め世界では『どのように女性が会社を興し、ビジネスをやっていくか』が当たり前に考えられています。何より、日本の成長のため、新しい視点、多様な視点がモノづくりやサービス、農業などにも求められており、潜在的な力を引き出すために女性によるビジネスにもっと光を当て、応援していきたいと思っています」

民間の金融機関では難しい中長期の融資をはじめ、長期的な投資、M&Aのアドバイザリー、企業価値・競争力向上のためのコンサルティングなどを企業に提供し、日本の産業・経済の発展を支えてきた日本政策投資銀行。同行が注力している「女性起業家の支援」を担うのが、栗原さんがセンター長を務め、2011年11月に設立された「女性起業サポートセンター」だ。栗原さんは事業の企画・立ち上げから任され、最初の事業として12年6月に「女性新ビジネスプランコンペティション」を実施。643人の応募を集めた。
「女性起業家の育成は日本の経済力を保つために重要なこと。ですが、単に投融資をするだけなく、女性のビジネスが注目・期待されているというメッセージを社会全体に届けなければインパクトに欠けると考え、このコンペを企画しました。まだスタートラインに立ったばかりなので、今後は受賞者の事業の成長をサポートしていくとともに、応募者の皆さんの事業計画を進捗させるための情報交換の場や企業とのマッチングの機会などの基盤づくりに取り組み、長く、地道に応援していきたいと思います」

入行後、企業への融資やM&Aアドバイザリーなどさまざまな業務に携わってきた栗原さん。現在の業務に至る大きなきっかけとなったのは、入行10年目から携わった銀行統合業務だった。
「10年目に異動した財務部時代に日本開発銀行と北海道東北開発公庫が統合することとなり、財務部で資金や勘定の統合・管理の方法や、統合後の新しい仕組み、新しい銀行の外部からの評価を考え、作っていきました。新銀行発足後は情報企画部に異動し、経理・財務システムの統合に携わることに。これらの経験から企業統合への興味や問題意識が生まれたのです。統合するからには統合によるメリットを出さなければなりませんし、それが外部からどのように評価されるのか、もっと深く考えたいと思ったのです。また、せっかく財務やシステム分野で統合を経験したので、何かしら取引先や当行の事業に還元したいという思いもあり、M&Aを担当する部門への異動を希望しました」

そうして17年目にM&Aアドバイザリーサービスを担う企業戦略部に異動。依頼元企業の代理人としてパートナーの選定や交渉にあたるという、投融資事業とまったく異なる未経験の業務のため「新しい会社に就職し直す気持ちで異動した」と話す栗原さん。失敗も成功も重ねながら経験を積んでいった。
「親会社の事業戦略の変更によりグループから切り離されることとなった子会社の独立(MBO)案件や、ある県に本社のあるホームセンターが他県のホームセンターを買収する案件など、さまざまな案件に携わりました。携わって実感したのは、M&Aはゴールではなくスタートであるということ。統合後に相乗効果を出せなければそのM&Aは成功したとは言えません。そのために、企業側にはM&Aによって実現したいことのビジョンや統合効果を出すためのアクションプランを持っていただかないといけませんし、私たちは経営陣が何を重視されているのか、その本音や思いをきちんと捉えて交渉に臨まなければなりません。交渉や戦略を組み立てる経験を積むことは必須ですし、売却・提携先に適した企業へのアプローチルート、しかもできるだけ意思決定者に近いところにアクセスできる人脈を持つことが重要でした」

5年後、栗原さんはさらに挑戦をする。「自分の専門性の中に欠けているのは『国際性』だ」と考え、入行22年目から2年間、アメリカのスタンフォード大学に客員研究員として赴任。アメリカのM&Aの手法やベンチャーキャピタルの出口戦略について学び、スタートアップ企業があふれるシリコンバレーも肌で感じた。
「アメリカのベンチャーキャピタルが投資先の企業を手放す際、約8割がM&Aを行います。一方で、日本の場合はIPO(新規株式公開)や経営陣に買い戻してもらうという手法がほとんど。アメリカではなぜ、ベンチャーキャピタルの出口戦略として、あるいはスタートアップ企業の成長戦略としてM&Aが利用されているのかを学び、日本でも何かしらの形でベンチャーファイナンスやIPO市場などの環境改善に取り組み、もっとスタートアップ企業を応援できればと考えるようになりました」

そして現在、同行が新たな成長分野として位置づけ、設置した医療・生活室の室長(部長職)と女性起業サポートセンター長を兼務。いずれも同行の新分野であり、それらを開拓する責任とやりがいを感じながら仕事に取り組む日々に、これまでの経験も存分に生かされているという。
「女性であることを意識してキャリアを積んできたつもりはありませんが、結果として私がこれまでやってきたことや今取り組んでいることは、女性の活躍のさまざまな場面をサポートしているなと感じています。初めての女性総合職として入行し、行内で初の女性管理職になった私のキャリア自体が女性の活躍の事例の一つだと思いますし、また、今の部署で女性がビジネスを起こすことを何かしらの形で応援できる。その両方にかかわれていることのやりがいはものすごく大きいですね」

とはいえ、栗原さんもキャリアについて悩むこともあったという。入行当初こそ同行の主業務である企業に対する融資を担当したが、3年目に関西支店に異動。さらに科学技術庁(現・文部科学省)に出向し、再び融資の現場に戻ったときには入行8年目を迎えていた。
「入行から7年たっているのに融資の経験や専門知識を十分に習得しておらず、『このままキャリアアップしていいのだろうか?』と感じて。また、銀行の統合にかかわっている期間も長く、ここでも投融資の現場から離れていました。ただ、今振り返ると、これらの経験はすべて今に生きていますし、経営統合を経験したことで企業統合への問題意識を持つことができ、究めていきたい専門性がなんとなく見えてきたのも良かったと思います」

多様な経験を積み重ねてきた栗原さん。これから社会に出る学生たちにこのようにエールを送ってくれた。
「ここ数年、当行に入行してくる若手を見ていると、10〜20年後のありたい姿を明確に描き、学生のころから努力している人が多く、それ自体は申し分ないと感じています。しかし、社会人になってすぐに十分な成果を出せるかというとそうではありません。経験がものを言うこともたくさんあり、専門性と経験の両方があってこそ、いいサービスができるのだと感じています。無駄な経験というものは一切ありませんので、地道に、いろんな経験を積んでいただきたいと思います」