エマニュエル・ムホー(emmanuelle moureaux)
 
巣鴨信用金庫志村支店、常盤台支店の設計でいくつもの海外の賞を受賞した、フランス出身・東京在住の建築家・空間デザイナー、エマニュエル・ムホーさん。今国内外でもっとも注目される建築家の一人でもある彼女は、なぜここ日本で事務所を構え、設計やデザインの仕事をしているのでしょうか。
 
初来日 〜 事務所を構えるまで
「初めて来日したのは、1995年のこと。そのときは、大学の卒業プロジェクトで東京をテーマにしたので、そのリサーチのためでした。でも、この地に降りて2時間で、『ここに住もう』と決めました」と、大胆な決断を笑顔でさらりと話します。
高校生の時には、三島由紀夫、夏目礎石、谷崎潤一郎、安部公房など、日本文学が好きだったというムホーさん。学生時代に、卒業プロジェクトのテーマを興味の対象だった日本にしましたが「当時は現代の日本についての情報がまったくなかったので、リサーチのために日本に行く必要がありました」。そして初めて出会った日本の風景。たった2時間でムホーさんを虜にした“日本”は、いったい何だったのでしょうか。
emmanuelle moureaux 
「成田空港から出た時の風景が衝撃的でした。自然の緑の中に鮮やかな青い屋根の民家が点在して。瓦の屋根が一瞬プールのように見えたんです。その緑が青に変化していく風景が感動的でした」。成田エクスプレスに乗ったムホーさんは、池袋の旅館へ。その池袋の街もまた「色に溢れていて、美しい絵画を見た時の衝撃でした」ムホーさんの育ったフランスの街は石造りの家屋が並び、まさに「街が石の色」そのもの。そんな彼女にとって、東京は「たくさんの色が混ざり合っていて美しい」場所でした。
東京
 また同時に、「フランスに限らずヨーロッパの街は自分の両側に石壁が迫り、目線が正面に向いて上に空があるのが特徴。ですが、東京は大きなビルの後ろに小さな民家があり、その間を電線が通ったりしていてたくさんのレイヤーが重なっている風景。奥行きが感じていて、空が色々なところに現れ、それがとても居心地よく感じたんです」。
フランスに戻り建築家免許を取得したムホーさんは、2か月後に移住を目的に再来日。驚くべきことにムホーさんは「東京で自分の事務所を作りたい」という思いを成し遂げるため、有名建築家の事務所は「興味があったので会いに行きましたが、所属することは考えていませんでした。自分で吸収したいと思っていましたから」と、生活のために別の職業を選び、独自にスタディやリサーチを行っていました。
「東京に住んでから色を好きになりました。そして、東京に住んでいる内に東京のレイヤーの重なりや、東京の色が私のデザインに大きい影響を与えた。色で空間をつくる、色でエモーションを与える空間を目指しました」
「また日本の伝統家屋も「ふすまや衝立など、平面の重なりに惹かれました。ヨーロッパはパースペクティブな空間でしたから」。
ムホーさんが東京からインスパイアされた「色」と「レイヤー」は、現在のムホーさんのデザインコンセプトに。徐々に建築の依頼が増えていたムホーさんは、2003年、ついにご自身の事務所を構えました。「フランスで取得した建築士の資格は、日本で使えるものではありませんでした。とにかく誰かと組むのはイヤだなと思っていたので、日本の一級建築士の資格を取りました」。
 
ものづくりへの取り組み
 現在では、手がけた仕事が話題になり、数々の賞を受賞するムホーさん。「これは自分で決めていることですが、毎年なんらかの展示会に自分の作品を出展することです。依頼ではないものづくりを自分に課しています」。
eda
Photos : Nacasa & Partners
 2003年を皮切りに、毎年自分の作品作りも続けています。2010年は「DESIGNTIDE TOKYO」に参加。「『eda』つまり小枝をモチーフにしたプロダクトを作りました。色を線で見せ、その細い線から立体を作り、フレキシブルな空間を構成しました」。
 
toge
Photos : Daisuke Shimokawa/Nacasa & Partners
2011年の「DESIGNTIDE TOKYO」では、『toge』というモジュール型のプロダクトを発表。その名の通り、棘のあるこの硬いプロダクトがそれぞれに絡み合い、ふわりとしたやさしい色合いを生み出しながら、やわらかい空間ができあがりました。「15色のカラフルなtogeを500個使い、ウエディングドレスを作りました」。
「通常、色は後付けや仕上げ的な存在。私は、色を様々な形にして空間を作ることで、色の可能性を探っています」。ムホーさんにとって、色はプロセスの最初にあるもの、「二次元ではなく、三次元で考えるものです。私にとって色は、空間を作るための一番大切な要素です」。
ムホーさんにとって東京は、色の魅力を教えてくれた場所。いろいろな美しさで溢れているところだと言います。そして、「街の中でも、かならずどこかに隙間があり、空が見えます。そんな重なりも、私のインスピレーションになっています」と。現代の日本が、ムホーさんのクリエイティヴィティを刺激しているのです。
「人が変わると、街が変わります。フランスは、街が変わらない場所。私は色やレイヤーの重なりを使って、なにかを感じてもらいたいと思っています」。巣鴨信用金庫の建築もまた、街を変え、人を変えるような、色の刺激とエネルギーを感じさせるもの。巣鴨信用金庫では、雰囲気の変化だけでなく、新規口座の増加など、目に見えるた反響が数字にもあらわれているそう。今後も目が離せない建築家です。
 
 


エマニュエル・ムホー PROFILE
東京在住フランス人建築家・デザイナー。日本古来のデザインを現代にも活かしたいという想いから、伝統的な間仕切りにヒントを得た色とりどりのパーティションシリーズ「色切/shikiri」を編み出す。その「空間を色で仕切る」というコンセプトから、色を平面的ではなく三次元空間を形作る道具として扱い、建築、インテリアデザイン、プロダクトデザインまで幅広く手掛ける。
東北芸術工科大学准教授、東京建築士会正会員、日本建築学会正会員

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