テレビで連日放送されるような事件でもなく、インターネット上で話題になるような事件でもない。直木賞候補作に選ばれた辻村深月氏の『鍵のない夢を見る』で取り上げられている事件は、地方にある普通の町で、ほんの一瞬魔が差したというような小さな犯罪ばかり。

 小学生・水上律子の母が登場する「仁志野町の泥棒」。律子の母が近所の家に泥棒に入るといった噂が広まったのは、ミチルが小学五年生になった時のこと。ミチルや律子が住む地域は、留守にする時には鍵をかけない家が多く、農家なら尚更。ちょっとそこまでといった雰囲気で、畑や田んぼに向かう人がほとんどです。その隙を狙って律子の母が忍び込み、現金や通帳を盗んでいるといった噂が、律子の家の近所から広まり始めました。律子が引越しを繰り返しているのも、そういった理由からといったものも。

 律子とは小学三年生から仲良しだったミチルは、その噂を聞いてあっけにとられてしまいました。当然のことです。小学五年生ではなかなか理解ができない事件です。また、それ以上に驚いたのは、ミチルと同様に律子と仲が良かった優美子にこの噂が伝えられた時のこと。ミチルはとびきりの衝撃を受けることとなるのです......。

 「女の人はね、かーっとなっちゃう時があるの、ミチルちゃんも生理が来るようになるとわかるかもしれないけど、自分でもどうしようもないくらいコントロールが利かなくなっちゃう時がくる。律子ちゃんのお母さんは多分、それなんだと思う」

 とは、優美子のお母さん。

 大人にも子どもにもなれない中途半端な時期の女の子たちの目の前で起こる泥棒事件のお話。

 その他にも、ささやかな夢を叶える鍵を求めて帰路に立ち、転がり落ちる女性の姿を見事にとらえた4篇が同書に収録されています。



『鍵のない夢を見る』
 著者:辻村 深月
 出版社:文藝春秋
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