オーディオブックは“豊かな時間を過ごせるエンターテインメント”

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 高校野球小説として多くの読者を感動させた『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(以下『もしドラ』)の著者・岩崎夏海氏が執筆したもう1つの高校野球小説がある。それが『エースの系譜』(講談社/刊)だ。
 『エースの系譜』は硬式野球部がなかった高校が野球部を立ち上げ、そして甲子園への切符を勝ち取るまでの10年間を追い続ける青春小説だが、台詞が少なく、淡々とストーリーが進むという構成は異例の作品ともいえる。そして7月、この『エースの系譜』がテレビ東京の女性アナウンサー3人(森本智子さん、大橋未歩さん、水原恵理さん)起用のもと、オーディオブック化された(オーディオブック配信サービス「FeBe」にて配信中)。
 どうして『エースの系譜』を執筆したのか、そしてどうしてオーディオブック化にテレビ東京の女性アナウンサーを起用したのか。岩崎さんにお話を聞いた。今回は後編をお伝えする。(聞き手:金井元貴)

■12時間の超大作『エースの系譜』の聞きどころとは?

―『エースの系譜』を読ませていただいたとき、高校野球特有の熱気から少し離れた、客観視していることからくる落ち着きみたいなものがありました。そういうテイストだからこそ大人の女性の声が合うと思いましたし、逆に『もしドラ』はナレーターを担当したAKB48の仲谷明香さんのように、これから輝こうとしている人が合っていましたよね。

「その通りだと思います。今回声を当てて下さいました3人の女性アナウンサーはどの方も修練を積んでいらっしゃるんですよね。持っている技術がすごく高くて、表現の豊かさもご経験を積まれてきたからこそのものだと思います。これはシビれますよ。物語自体は淡々とした口調で進むけど、描かれている情景は激烈なものです。それがテレビ東京の3人のアナウンサーの声に乗るとね、瞼に景色がありありと思い浮かぶんです。これはすごいなと思いましたね」

―テレビのドキュメンタリー番組を見ているかのような感覚になってしまうのかな、と。

「そうですね。朗読を聞くときは目を瞑って聞いてほしいんですよ。瞼の裏に情景が浮かぶと思います。それは、映画やテレビで見るよりも、10倍も100倍も興奮します。朗読は映像がない分、入り込むまで映像より時間がかかるけれど、一旦入り込んでしまうと、これほど豊かな時間を過ごせるエンターテインメントはないなと思いますね」

―今回、岩崎さんは演出をご担当されていますが、『エースの系譜』をオーディオブック化する際に、作品の良さを引き出すために気をつけた点はありますか?

「語り部として起こった事実を淡々と伝えるという、アナウンサーの方が普段からされている役割をここでもこなして欲しい、と。ニュースとは違うもので、叙事詩ですから、ドキュメンタリー番組の語り部のような役割でやって欲しいと事前にお話ししたのですが、僕が心配するまでもなく、それぞれ素晴らしい語り部を演じてくれました」

―このオーディオブック版『エースの系譜』は12時間の超大作となりましたが、その聞きどころを教えていただけますか?

「やはりバトンリレーをしているところです。最初が森本さん、中間を大橋さん、そして最後を水原さんと、この作品は3人の女性がバトンをつなぐように読んでいますが、このバトンのつなぎ目の部分を聞いて欲しいですね」

―では、ここからは「オーディオブック」についてお話をうかがいたいのですが、岩崎さんはオーディオブックに対して積極的な姿勢を見せていらっしゃいます。では、オーディオブックの可能性についてどうお考えですか?

「もっと広がっていくべきだと思います。先ほども言いましたが、エンターテインメントとしての朗読はすごく強いんですよ。映像とは違い、想像力が10倍も100倍も広がります。その魅力に一度とりつかれてしまうと、なかなか抜け出すことができません。
僕には好きな小説がいくつかあるのですが、そういった小説も朗読で聞きたいなと思うんです。そうすることで、文字で読んでいるときには気付けなかったことも気付くんですよね。だから、僕に限って言えば、小説の中にオーディオブックの可能性を見出していますから、もっと若い人や子どもたちに、その楽しさを知って欲しいと思いますね」

―岩崎さんは6月に『チャボとウサギの事件』という新作を出版されましたが、これもオーディオブック化しますよね?

「もちろんしますよ。これも、オーディオブック化しないといけませんよね」

―ありがとうございます。楽しみにしています。

「ただ、誰に作品を読んでいただくかが悩みですね(笑)。一人称なので、これまでとはまた違ったものになると思います。『チャボとウサギの事件』は小学6年生の男の子が語り部なんですよ。台詞ももちろん出てきますが、基本的に一人の少年が書いているという体裁なので、朗読すると面白いんじゃないでしょうか」

―また、その他に岩崎さんのご執筆活動がございましたら教えていただけますか?

「小説ではないのですが、6月の終わりに『甲子園だけが高校野球ではない2』という高校野球のエピソード集が出ました。また、もう一冊、『宇宙って面白いの?』という、僕の高校の同級生である星出彰彦という宇宙飛行士と対談した本が出ますね」

―これがまた奇抜な表紙なんですよね。

「私が宇宙人になっていて、同級生に殺されかけているという(笑)。実はこの星出は、『もしドラ』に出てくる星出純のモデルになった人なんですよ。名前を拝借したんですよね」

―では最後に、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。

「ほとんどの方は聞いたことがないと思いますが、テレビ局の女性アナウンサーの方々の朗読は素晴らしいんですよ。だから、ぜひその朗読を堪能していただきたいですね。また、物語の中に入り込んで、想像力を膨らませることの喜びや楽しみ、瞼の裏にありありと情景が思い浮かぶ感覚を、ぜひ味わって欲しいと思います」

―ありがとうございました。

(了)

■オーディオブック版『エースの系譜』特設ページはこちらから!
http://www.febe.jp/documents/special/ace/index.html