ジョアン・ミレット(スペイン人GKコーチ)来日直前インタビュー【全文掲載】
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「現代サッカーにおいてGKは最も重要なポジション」
ピカソの絵画として有名な都市、ゲルニカ。その絵画に描かれているように、スペイン内戦中にナチス軍によって受けた都市無差別空爆という悲劇の歴史を持つゲルニカをホームタウンとするサッカークラブが、ゲルニカSDだ。
そのジョアン・ミレット氏が13日に来日し、大阪、関東でGKクリニック、講習会を開催(主催:株式会社アレナトーレ)する。
<ジョアン・ミレットGKクリニック開催要綱>
指導者、GKコーチ問わずご参加可能です。多くの皆様にご参加頂き積極的な意見交換のできるクリニックにしたいと思います。
時間、申込方法などの詳細は下記リンクからご確認下さい!
お申し込みお待ちしております。
<大阪>
◆7/15(日)大阪学院U15フェスティバル
→ http://www.sn-osaka.com/
<千葉>
◆7/22(日)千葉(柏レイソル / U12対象)
→ http://blog.reysol.co.jp/news/2012/013862.html
<神奈川>
◆7/24(火)平塚(湘南ベルマーレ / U12対象)
◆7/26(木)平塚(湘南ベルマーレ / U15〜U18対象?)
◆7/27(金)平塚(湘南ベルマーレ / U15〜U18対象?)
→ http://www.bellmare.co.jp/56709
<東京>
◆7/30(月)町田(町田ゼルビア / U13-U18対象(講義))
◆7/31(火)町田(町田ゼルビア / U13-U18対象(実技))
→ http://www.zelvia.co.jp/news/news-16328/
史上初のEURO連覇を達成したスペイン代表のGK3選手(カシージャス、レイナ、バルデス)を見ればわかる通り、今やスペインは「GK大国」としても知られる強国となった。
そのスペインにおいて、「次にゲルニカから輩出するゴールキーパーが私にとって最高のゴールキーパー」と断言するジョアン・ミレット氏が来日を前に今の心境、クリニックを通じて日本のGKおよびGKコーチに伝えたいことを語ってくれた。
■重要なのは「誰から教わっているか」
――来日直前(13日)となりましたが、今の心境は?
ジョアン・ミレット(以下、ジョアン) 2年前に初めて日本を訪問し、今回は数多くのクリニック、講習会の開催を準備してもらっているので、前回よりも多くのことができるとワクワクした気持ちでいます。何より、多くの日本人との出会いを楽しみにしています。
――あなたのGKトレーニングメソッドについて簡潔に説明下さい。
ジョアン 私のGKトレーニングは、正確に言うと「トレーニングする」のではなく、「GKとしてプレーすることを教える」です。トレーニングには確かにいいメニュー、楽しいメニューがありますが、大切なことは選手が「なぜそのメニューを行なうのか」を理解してトレーニングすることです。
そのメソッドの中でGKとしてプレーすることを覚えると、選手はミスをした時に「何が原因で起こったのか」を説明できます。当然ながら、そのミスを修正することも可能となります。GKとしてプレーすることを教えることは、選手が自らのプレーを分析し、改善できるようにすることなのです。
――前回の来日でも日本人GKのプレーやトレーニングを見ているということですが、日本人GKについてどういう印象をお持ちですか?
ジョアン スペインとは異なるレベルですね。国のGKレベルで最も重要なことはそのポテンシャル、能力ではなく「誰からプレーすることを教わっているか」です。その意味で、日本のGKコーチはより良い準備をする必要があると思います。ただ、今や世界的に見ても高いレベルにあるスペインも、私がGKコーチのキャリアをスタートさせた頃には『GKコーチ』というポスト自体が珍しいものでした。
GKの指導が行き詰まった時期にスペイン全土を転々としてGKトレーニングを見学しましたが、問題は「ただ単に蹴られたボールを受けて、練習をこなしている」状態に陥っていることでした。なので、私は分析用に各地でのGKトレーニングをビデオに収めながら、どうすればGKとしてプレーするための技術、戦術を高めることができるのか、そのためのトレーニングメニュー構築に時間を割きました。
日本も、スペインや私のケースのように短期間でレベルアップすることは可能です。そのためにもGKコーチという存在に注目が集まり、彼らがしっかりとGKのプレーを分析し、日常に落としこむ必要があると思います。GKコーチにとって最も重要なことは、「なぜそのプレーを練習するのか」について明確な回答、ロジック を持つことです。
■GKは「手も使える選手」でなくてはならない
――現代サッカーにおいてGKの重要性というのはフィールドプレーヤー以上に増している印象です。
ジョアン その通りです。あくまで個人的な意見ですが、現代サッカーにおいてGKは最も重要なポジションであり、GKには選手としてコンプリートな能力が求められます。私の定義では「GKは手を使うポジション」ではなく、「サッカー選手としてのプレーが求められた上で、さらに手も使わなくてはいけないポジション」です。
だからこそ、GKは手を使ってシュートを受けるのみならず、どのような状況に応じることができるプレーを身に付ける必要があります。
――あなたの所属するゲルニカからは優秀なGKが多数出ており、ゴルカ・イライソスのようにアスレチック・ビルバオに引き抜かれた選手も多いと聞きます。これまで何度も聞かれたでしょうが、「なぜ」ですか?
ジョアン はい、何度も聞かれました……(苦笑)。まあ、一番の理由というか、私は毎日午後5時から9時までグラウンドで働いています。ゲルニカのGKたちは、私と週に3回GKセッションを行ないます。彼らがチーム練習に入るのは週に1日のみ。
日本に行った際、私の年間スケジュールやプログラムについて詳しくお伝えする予定ですが、私は全カテゴリーのGKに対応できるだけのセッション、プログラムを用意していて、それは選手個人の特徴によっても変化させています。つまり、個別のトレーニングまで用意しているのです。
ピッチで働く時間は毎日4、5時間ですが、自宅でも毎日4、5時間は働いています。具体的にはビデオを見て分析をしたり、プログラミングですね。GKコーチとしてこれだけ働いている人はスペインの中でそう多くないと思いますし、もちろん日々質を高めるための努力も行なっています。
――スペイン代表の連覇で終わったEUROにおいても、スペイン代表のGKレベルの高さは際立っていました。カシージャスはもちろん、ベンチに控えていたレイナ、ビクトル・バルデスも他国の代表ならば間違いなく正GKを務めるレベルだと思います。これだけスペイン代表のGKレベルが高い理由は何かあるのですか?
ジョアン 彼らの世代に優秀なGKが多かったという偶然性はあると思います。ただ、裏を返せばそれだけGKの育成やGKコーチの基盤がしっかりしている証拠だと思います。次の段階としては、GKコーチの指導や戦術がチームを指揮する監督に理解されることだと思います。
例えば、よく「GKはシュートを止めるポジション」という言い方がなされますが、私は違うと思います。GKの本質的な仕事とは、「シュートを止める」ことではなく、「シュートをゴールインさせないこと」です。よって、『シュートストップ』というよりは、『シュートブロック』と表現する方がいいでしょうし、そのための方法としてセービング、パンチングの技術を用います。
今回のEUROをGKコーチとして分析した時、直接フリーキックでGKがキャッチングしたケースはどのくらいありましたか? 答えは、「1つもなかった」です。全てパンチングやディフレクティングでシュートブロックしていました。
ボールの進化もあって今やトップレベルのGKには「シュートを止める」、「シュートを受ける」という概念はなくなっていますし、だからこそトレーニングにおいてもシュートブロックするためのシステム、戦術を構築するメニューが重要なのです。
■ただ疲れる練習はしない
――日本であなたのクリニックを楽しみにしている選手、指導者にメッセージをお願いします。
ジョアン 疲れるのではなく考える、楽しめる練習を準備して行きますので、楽しみにしていて下さい。私が重視しているのは、選手が1日の練習を終えて自宅に帰った時に、「今日はどんな練習をして、何が改善したのか」を理解し、心身共に充実した状態を作り出すことです。
往々にして選手というのは、練習で疲れを感じ、睡眠欲を高めるものですが、本当にいい練習をすれば「もっと考えたい、もっとうまくなりたい」という意欲を持ち帰ることができます。「あぁ、疲れた。早く寝たい」となるようなトレーニングにはなりませんから、いろいろな人に私のトレーニングを体験してもらいたいです。
――来日時には東日本大震災で大きな被害を受けた東北を訪問するそうですね?しかも、それはあなた自身がイニシアチブを取ったと聞いています。
ジョアン 前回日本に来た時、日本に住む知人に「日本という国は本当に美しく、素晴らしい。いつか住みたいと思える国だ」と話しました。そういう国に昨年、あの大きな震災が降りかかりました。私はその悲劇を聞いた直後から、「何かしなければ」という衝動に駆られていました。
今回の来日が決まった時、ぜひとも東北の仙台や福島に行って、子供たちにGK指導やサッカーを通じて笑顔をもたらしたいと考えました。実際、主催者に東北行きのスケジュールを組んでもらいました。同時に、私はゲルニカの市役所やクラブに掛け合って、人災とはいえスペイン内戦時に大きな被害を受けたゲルニカの街を代表して被災地の子供たちにGK指導のみならず、『ゲルニカからの贈り物』を届けられるような準備を進めています。
<了>
【プロフィール】Joan Miret (ジョアン・ミレット)
1960年11月生まれ、カタルーニャ州出身。スペイン人GKコーチ。スペイン2部、3部のチームでプレー後、怪我により24歳で現役を引退。1985年からテラッサ(2部)で育成ゴールキーパーコーチを務めるも、望むような成果が出せず悩んだ結果、現場を離れ、各地を回って練習見学を行なう。2002年からバスク州にあるゲルニカに拠点を移し、ゲルニカSDにて育成/トップのGKコーチを務める。そのゲルニカSDからはアスレチック・ビルバオの正GKゴルカ・イライソスら優秀なGKが多数育っている。ビルバオ(バスク州)のコーチングスクールでは、ゴールキーパーについての技術、戦術の講師を務める。スペインサッカー協会主催ゴールキーパーマスタークラス取得。
スペインでコーチ経験があるジャーナリスト小澤一郎氏のブログ