理研、難治性の骨疾患である「短体幹症」の原因遺伝子を発見

写真拡大

理化学研究所(理研)は、脊椎の異常により体幹の短縮を起こす1型短体幹症の原因遺伝子がPAPSS2遺伝子であることを発見したと発表した。

同成果は、理研ゲノム医科学研究センター 骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、飯田有俊上級研究員と横浜市立大学環境分子医科学の三宅紀子准教授らを中心とする共同研究グループによるもので、英国の医学雑誌「Journal of Medical Genetics」に掲載された。

骨関節には多くの遺伝性疾患が存在しており、そのほとんどが単一遺伝病、すなわち1種類の遺伝子に変異があるために発症する遺伝病である。

骨関節の遺伝病は、各疾患により特徴的な異常パターンを示し、そのパターンにより、多くのグループに分けられているが、中でも短体幹症は、脊椎の異常により体幹(胴体)の短縮を起こす疾患のグループであり、同グループには多くの疾患が属し、遺伝形式と脊椎変形の形状や合併異常の有無などの特徴により臨床的に1型から3型に分類され、さらに各型が細かく分類されている。

しかし、分類の基準は、非客観的かつ不明瞭で、骨関節の単一遺伝病の中でも、最も研究が遅れている疾患グループの1つとされている。

短体幹症は、いずれの疾患も、椎体の扁平化、脊柱が側方へ曲がりねじれる側わんなどの変形、早期の椎間板の変性、四肢関節の異常など骨格の異常をきたす難病で、その発症原因の解明、予防・治療法の確立が求められている。

そこで今回、研究グループは、先端の大規模ゲノム解析手法を用いて集中的に同疾患の遺伝子解析を行うことで、早期に原因遺伝子を究明し、遺伝的診断手法を確立することに挑んだ。

研究グループの医師、研究者が参加しているネットワーク「骨系統疾患コンソーシアム」が、3人の短体幹症患者を持つトルコ人家系の協力を得て、家系内での病気の伝わり方を詳細に検討した結果、常染色体劣性遺伝の遺伝形式を持つことが確認できたほか、患者の臨床像、X線画像の検討から1型短体幹症であると診断された。

これを受けて、研究グループは、次世代シーケンサを用いたエキソーム解析を用いて、3人に共通する遺伝子の変異を調べたところ、PAPSS2(phosphoadenosine-phosphosulfate synthetase 2)遺伝子に1塩基の挿入変異を発見した。

PAPSS2遺伝子は、常染色体の10番染色体長腕上に存在する遺伝子で、軟骨の基質の硫酸化に関係し、軟骨代謝に重要な役割を果たす酵素として知られている。

今回発見された変異は、余分な塩基が1つ挿入されることで遺伝子のタンパク質の読み枠がずれてフレームシフトと呼ばれる異常を起こし、正常より極端に短いタンパク質ができるためPAPSS2の機能が喪失すると示唆された。

次世代シーケンサ研究の問題の1つは、精度が低く、得られたシーケンスに擬陽性が多いことだが、研究グループでは、現在標準的に用いられているサンガー・シーケンス法でこの変異を調べることで、3人の患者がいずれも相同染色体の両方にこの変異を持っていることを確認した。

また、家系全体でこの変異を調べ、常染色体劣性の遺伝形式に対応して変異が伝わっていることが確認したほか、骨系統疾患コンソーシアムの協力を得て、この家系の患者と類似の臨床像を持つ非家族性の患者3人のゲノムについて、PAPSS2遺伝子の変異を調べた結果、いずれの患者も相同染色体の両方にPAPSS2遺伝子の機能を喪失させるような別の変異を持つことが判明した。

変異を持つ計6人の患者の臨床的な特徴やX線画像を検討したところ、脊椎の異常は極めて類似していたものの、それ以外の四肢関節の異常や肋骨の石灰化などの症状は、家系内でもかなりの違いがあることが判明した。

従来、いくつかの症状によって1型短体幹症が細分類されていたが、今回の結果から1型短体幹症発症の原因遺伝子は1つであり、報告されていたさまざまな症状は、個人差や異なる発症時期や進行度合に由来することが確認されたこととなる。

今回の成果により今後、PAPSS2遺伝子解析による1型短体幹症の遺伝子診断、保因者診断が可能になるほか、不明瞭だった短体幹症の分類の整理が進み、疾患の概念がより明確になり、臨床診断が容易になると研究グループではコメントしている。

なお、PAPSS2変異による1型短体幹症は、酵素の欠損によって引き起こされるため、早期に疾患を発見しPAPSS2を補充することによって症状の改善、治癒が期待できることから、研究グループは今後、PAPSS2の機能解析を通じて短体幹症の病態を解明し、短体幹症やその類縁疾患の画期的な治療法開発を目指すとしている。