友人や兄弟から突然結婚を報告される、なんてことはよくある話。でもその相手がもし、「鮎」だったとしたら?

 第174回芥川賞の候補となった、舞城王太郎氏の『短篇五芒星』の中に収録されている『アユの嫁』は、そんな突拍子もない状況からストーリーが始まります。主人公の姉がある日突然、結婚を報告。それも相手が、魚の「鮎」だと。こんな始まりだと、読む側は先が気にならないわけがありません。さらに出発点が突飛なだけに、その後もどう転んでも突飛な展開に。しかしその一方で主人公の実家のあわてぶりなど、「普通じゃない」状況における「普通の人」の反応もつぶさに描写されているため、リアリティがあるのです。

 『短篇五芒星』に収録されているのは、このようにどれもが「ひとクセ」ある作品ばかり。「美しい馬の地」では男性主人公がある日突然、「流産」の理不尽さに強い怒りを覚えだす、というなんともシュールなもの。そしてあまりに熱心に流産への怒りを語る主人公に、彼女はドン引きして離れていき、友人からは反感をかい......という、こちらも「普通の人」の反応をしっかりと描写。確かに、ある日突然彼氏が「流産ってさ...」なんて話し出したら気持ち悪いですよね...。
 
 さらに「四点リレー」に至っては、舞台設定が「殺人事件現場に閉じ込められている」というかなり特殊なシチュエーションでありながら、冒頭からストーリーはその特異性をまったく無視。全然違った角度から物語は始まります。

 しかしそうした目を引く舞台設定もさることながら、注目したいのは各物語の着地点。始まりが突拍子もなければ、終わりもそれぞれが意外なところに帰結するのです。そしてその意外性に、また発見があるのです。

 先に挙げた作品に『バーベル・ザ・バーバリアン』『あうだうだう』を加えた計5作品を収録した『短篇五芒星』は、『群像 2012年3月号』に掲載されています。5作品どれもが、どこを切っても舞城氏の独創性がつまった作品になっています。



『群像 2012年 03月号 [雑誌]』
 著者:
 出版社:講談社
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