5月7日、インドの財務相が議会において、「GAAR(一般的租税回避防止規定)の導入を1年先送りする意向を示した」と報じられました。


経済成長率の鈍化や双子の赤字も懸念材料。株と通貨のダブル安…

と言われても、初めて耳にする方は「なんのこっちゃ?」だと思います。ただ、実はこのニュース、インドの現状を如実に表しています。

機関投資家をはじめとした多くの外国人投資家は、インドに投資する際、租税回避地を経由して取引を行なっていますが、こうした取引を規制してきちんと税金を払ってもらおうというのが、GAARの導入です。3月にインド政府が2012年度の予算を発表したときに、このGAAR導入による課税強化が盛り込まれました。

しかし、「そんなのイヤだ」と反発した外国人投資家がインドから資金を大量に引き揚げる動きが出始めました。資金の流出によって、インドの株価は下落基調を強め、通貨であるインドルピーも過去最安値を更新する事態となったため、とりあえずGAARを棚上げしようというのが冒頭のニュースの概要です。

報道の直後こそ株価やルピーも持ち直したものの、その後は欧州情勢や世界景気の減速懸念の影響により株安、ルピー安が続いています。

もっとも、外国人投資家による資金流出はこの規制に対する反発や警戒感からだけではありません。インドの経済改革の遅れなど、政策に対する不透明感や、企業の業績見通しの落ち込みや設備投資の縮小といった事業環境の悪化、多額の財政赤字と経常赤字など、インド固有の要因もあります。

また、2011年のインドの実質GDP成長率は前年の2ケタ成長から大きく落ち込んだほか、S&Pがインドの格付け見通しを引き下げるなど、インドに対する目先の不透明感が強まる中、GAARはあくまでも資金流出のきっかけだったといえます。

とはいえ、個人消費の拡大が続き、大規模なインフラ投資計画が控えていることなどを考慮すると、インド経済の中長期的な見通しはさほど悲観的になる必要はないと思われます。しかし、しばらくは軟調な地合いが続きそうです。ちなみに、インドから流出した資金はASEAN(東南アジア諸国連合)などに向かっているともいわれており、新興国の間でもより魅力のある投資先に資金がシフトしている可能性があります。



土信田雅之
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト

新光証券などを経て、2011年10月より現職。ネット証券随一の中国マニアのテクニカルアナリスト。歴史も大好きで、お城巡りと古地図収集が趣味。


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この記事は「WEBネットマネー2012年8月号」に掲載されたものです。