損保ジャパン北東京支店新宿新都心支社 支社長
相澤弘美
1992年入社。北東京支店法人営業第一課、東東京支店浅草支社、東京中央支店千住支社、京葉支店船橋支社、営業企画部 生保グループなどを経て2012年4月より現職。18人の女性を率いる。

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しかし、「女性ならでは」のアイデアは男性がいる職場でも出てくるはず。真の狙いは女性社員のキャリア意識を向上させることのようだ。そごう・西武の広報を担当する小室淳子は、正社員を女性ばかりにしたことで、「(男性社員への)甘えは許されず、みんなしっかりしてきた」との感想を持つ。

「今、西武所沢店は女子校のような雰囲気です。すごく仲良くなっていて、会議でも自由に意見が言いあえる。まとめるのは大変そうですけど。女性だけにすることで作業面での課題の顕在化もできました。男性のように重い荷物を長時間は持ち運べないので、売り場とバックヤードを近くするなどの工夫をしています。育児休暇などの制度も、上司が『自分も通ってきた道』なので活用しやすい雰囲気ができつつあります」

なお、所沢店を「女性だけの百貨店」として顧客にアピールすることは「おこがましい」ので控えているという。

セブン&アイと同時期に「女性だけの営業店」をスタートさせたのが損保ジャパンだ。女性が中核となって運営する営業店を全国18カ所に設置した。

損保業界は典型的な男性中心の業界。営業現場では、女性は契約管理などの後方支援業務に限られ、販売代理店や顧客の対応をするフロント業務は男性が担当してきた。しかし、女性ばかりの営業店を設ければ、外回りをはじめとする「男の仕事」を女性がやらざるをえない。

女性ばかりの営業店の一つ、北東京支店新宿新都心支社を訪ねた。約30の保険代理店の支援が主な業務だ。支社長を含め18人のスタッフ全員が女性。まさに女子校的な光景だ。やりにくさはないのか。支社長の相澤弘美に聞いた。

「私も『部下に男性が入っているほうがやりやすいのに』と思っていました。でも、女性だけでも(支社としての)タスクは同じです。連帯感やチームワークはむしろ醸成しやすいと感じています。男性の目がないので、みな伸び伸びしていますよ。事務所内の力仕事も自分たちでやる。今までなら男性にお願いしていたのですが、みな意外と強い(笑)」

確かに、連帯感の強さは感じる。相澤を通して写真撮影をお願いすると、全員が仕事の手を止めて協力してくれた。

営業活動のパートナーである販売代理店の評判は上々。挨拶回りをすると、「がんばっているね。応援するよ」と声をかけてもらえるという。丁寧で細やかな事務指導などが評価されているようだ。

とはいえ、女性ばかりの組織でマネジメントに苦労することは本当にないのだろうか。

「男前の上司でありたいと思っています。正義感があって、公平で前向きに。一方で、双方向のコミュニケーションにも気を配っています。『ちょっといいですか?』と意見を言いやすい雰囲気をつくっているつもりです。ノミニケーションもやりますよ。スケジュールを前もって知らせておけば、子育て中の女性も飲み会に参加しやすいんです。コミュニケーション相手が偏らないように気をつけています」(相澤)

いきなり飲みに誘ってもついてくる部下だけをかわいがる男性管理職に聞かせたい立派な心構えだ。実際、部下の女性たちからも、「困っているときも状況を汲み取ってくれる」「日頃から接点を持ってくれて相談しやすい」「上から目線じゃない」と評価が高い。

相澤のような上司ならば男性の筆者も部下になりたい。なぜ女性ばかりにする必要があるのだろうか。

「もちろん、男性がいても女性の活躍は物理的には可能ですが、歴史的に女性に役割付与がしにくい業界なのです」と人事部の小田文子は説明する。そして、今回の取り組みは、「保険会社の最大の経営資源である人材を最大限活用するために、女性にも活躍の場を与えよ」という経営陣からの指示なのだという。

損保ジャパンは以前から「新たな働き方の推進」に取り組んでおり、2010年には「総合職」「業務職(一般職)」というコース別人事制度を廃止し、総合系職員として一本化した。ただし、国内外を問わずに転勤する「グローバル職」と一定地域内で働く「エリア職」に分け直したところ、前者の9割以上が男性、後者の9割以上が女性という結果になった。

ちなみに小田は数少ないグローバル職女性の一人。スパルタ式の営業研修の中で唯一の女性参加者だったこともあると笑いながら振り返る。ならば、いっそのこと正社員すべてを「グローバル職」に転換すればいいと思うが、大半の女性社員がそれを希望しないのだろう。

リクルートワークス研究所の大久保幸夫も、その問題点を指摘する。

「頭数では女性が多いのに、男性が支配権を持つ会社は多い。その典型が金融です。これまで、一般職には余計なことはしなくてもいいと言って押さえつけてきたのに、時代が変わって総合職化しようとしている。大量にいる女性の活性化に頭を痛める企業は多いのです」

社長の櫻田謙悟からは次のような訓示が「女性ばかりの営業店」に伝えられているという。

「がんばらなくてもいい。代理店やお客様に対して、今までどおりの接し方をしてみて、どんな効果が表れるのか見たい」

櫻田の優しい人柄が垣間見えるような言葉である。しかし、そんな生ぬるいことでいいのかと不安にもなる。小田は、女性社員を成長させるためには「場の提供」が必要なのだと補足する。

「男性でも若手社員に役割を与えることは、他社でもやっていますよね。それと同じです。権限を付与すると、それに応じてやりがいも感じて成長も早まります。もちろん、(失敗する)リスクはありますが、どんどん積極的にチャレンジさせようというのが当社の風土です」

権限付与が成長につながるのは賛成できる。相澤をはじめとする新宿新都心支社のメンバーは溌剌としていた。しかし、彼女たちは男性がいても前向きに働くはずだ。「男性がいると萎縮してしまうので女性ばかりにする」という発想の妥当性は最後まで納得できなかった。

(文中敬称略)

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リクルートワークス研究所 所長
大久保幸夫
1961年生まれ。一橋大学経済学部卒。99年同研究所を設立。2010年より内閣府参与を兼任。専門は人材マネジメント、労働政策、キャリア論。

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