その名刺、何に使うんですか

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友人のM子から、初めて「異業種交流会」に出席したと聞かされた。会社に来た無料招待の案内を見て上司が申し込んだものの、急用ができて代役を頼まれたらしい。

そこで驚いたのは、大量の名刺を持って歩き回る参加者たちの様子。「とりあえず名刺交換でも」と言いながら近づいてきて、自己紹介もそこそこに数十秒で駆け抜けていく「名刺コレクター」がたくさんいたという。

「中には、『名刺欲しいんですけど〜』『名刺いりませんか〜』って呼びかけてる人もいてさ。交流なんてありゃしなかったわ」

個人情報を集めて、他人に売る人もいるって?

会の始めのころに名刺を交換した人が、中盤になって「名刺交換でも」と近づいてきたこともあった。さっきお会いしましたけど、と返事をすると、

「え、どれですか、といって名刺の束を探してるんだけど、100枚近くあるもんだから見つけられなくて。しょうがないから、もう1枚あげたわ」

会の終わりがけに、「もう終わっちゃうんで、念のため」と名刺の受け渡しだけした人も何人かいたという。

あの人たちは何をしていたんだろう――。M子とふたりで、そんなことを考えた。「異業種交流会」に参加しただけで満足してしまう「意識の高い(笑)」人たちだろうか。家で名刺の束を見ながら「オレの人脈も数百人か」とほくそ笑んでいるのかもしれない。

そんな話をしているうちに、先輩編集者のNさんが遅れて合流した。事情をまとめて話すと、彼は表情を曇らせた。

「Mちゃん、ダメだよ。20代の若い女の子が、そんなワケの分からない人に貴重な名刺バラまいちゃ。上司はちゃんとチェックしてなかったの?」

Nさんによると「異業種交流会」の参加者の中には、名刺という個人情報を集めて、他人に売る人がいるらしい。詐欺的なメールの宛先だけでなく、ネットワークビジネスや宗教の勧誘先の名簿になることもあるというのだ。

「同業者交流会」の方がよさそうなのに

そんな裏の目的を隠して、名刺を集める人がいるとか…。予想もしなかった指摘を受けたM子は、「どうしよう。100枚近くあげちゃったよ」とおどおどし始めた。幸い、いまのところは怪しい電話やメールは来ていないようだけど。

そもそも、なんでそんなところに行ったのか。中堅商社に勤めるM子の上司が申し込んだ動機は「新規営業先を開拓したかったから」だという。でも、Nさんは「そんな場所で仕事が成立するなんて、宝くじ並みの確率」と冷ややかに言う。

「だって、みんなが自社の商品を売りたがってるんだから、買い手になりそうな人が少ないのは当たり前じゃない(笑)」

考えてみれば、なぜ「異業種」なんだろう。同業種の人と交流した方が、勉強になることが多いのに。交流によって何かが生まれる可能性だって、ずっと高くなりそうだ。

もっといえば、ユーザーを集めて関係を深め、自社のサービスのいいところや悪いところを聞いて、改良につなげていった方がいい。突っ込んだ話から「あそこのメーカーに話をしてみたら?」と商談先を紹介してもらえるかもしれない。

そういえばSNSやネットサービスを通じて知り合った人たちと、オフ会をする機会もありますね、と話したら、Nさんに「気軽な交流もいいけどさ、参加者が多くなれば怪しい人も増えるからね」と釘を刺されてしまった。(池田園子)