大手出版社が苦境に陥る中、宝島社は女性雑誌をヒットさせている。そのカギは商品やチャネルの意味を読み替える「視点転換」の巧みさにあると筆者は説く。

■なぜ「書店チャネルは素晴らしい」のか

町中に書店がなくなって久しい。どこの商店街にも、2、3店はあったのではないだろうか。私が住んでいる高槻市の一番賑やかな商店街には、4軒の書店があった。しかし、何人かの店員さんを擁していた比較的大きい書店はすでになく、最近相次いで小規模の書店が消えた。費用が少なくて済む小規模書店でも経営が成り立たないのだろう。駅前の百貨店などに大手チェーンの2店のみという状態になっている。しかし、その大手書店チェーンも、決して経営は楽ではなく、経営統合が始まっている。若者の書籍離れに加えて、書籍通販に市場を奪われて、書店業は典型的な衰退業種になっている。

その中で、書店を新たなチャネルとし、女性雑誌をヒットさせている会社がある。宝島社である。同社は、雑誌の付録に有名ブランドのアイテムを付けて販売している。というより、私には、ブランドアイテムを売るために雑誌を発行しているように見える。「ブランドムック」と呼ばれる商品である。これが大ヒット。私は、ブルックスブラザーズ・ブランドのトートバッグをもっているが、しっかりして使いやすく重宝している。

この雑誌を企画した同社編集企画の桜田圭子さんに言わせると、書店チャネルは素晴らしいとのこと。あらためて考えれば、予定日を違えず商品がきちんと店頭に並んだり、定価で販売できるようになっていたり、販売チャネルとして重宝できる。同社の書店店頭での販促の一つを見せてもらうと、普通は書籍が並んでいるはずの店頭に、三面鏡化粧台が並んでいた。美容器具をブランドアイテムとするムックの販促である。

宝島社は大手出版社が苦境に陥る中で成長しているが、そのカギはブランドムックをはじめとした商品やチャネルの意味を読み替える「視点転換」の巧みさにある。今回は、この視点転換による成長の可能性を、栗木契・水越康介・吉田満梨/編『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣、2012年)を参照しながら考えてみよう。

同書では、8つのケースが紹介されている。その一つが〈はとバス〉である。東京近郊を観光巡りする観光バスの会社である。1948年、戦後すぐの時期に、都内定期観光バス会社として設立された同社は、「地方から東京へ出てきた観光客」相手に、1日あるいは半日、観光バスで東京の名所旧跡を案内する「都内定期観光バスビジネス」として人気を得てきた。

しかし、このところ定期観光バスの需要は沈滞している。同社も99年から04年の5年間で需要は20%も減った。もう少し古い資料を調べると、衰退傾向ははっきりする。〈はとバス〉の利用者は、64年には123万人であったものが、05年には53万人と、半分以下に落ちているのだ。

■視点を切り替える3つの要素とは

その理由はいくらでもありそうだ。ベルトコンベヤーに乗ったかのように、決まりきった観光ルートを、大勢の人と一緒に回るというのは、時流に合っているようには見えない。その意味で、衰退の流れを反転させることは難しいが、〈はとバス〉は、この不利な流れを反転させた。

まず、彼らは、自分たちの事業の反転の芽を探すべく手元の資料を見直すことから始めた。事業を見直していると不思議なことに気づいた。一つは、〈はとバス〉の予約は直前になって伸びることだった。〈はとバス〉に乗りたくて東京に来ているのではなく、直前にたとえば、天気の様子を見て、あるいは時間が空いたからという理由で、来られるお客様が〈はとバス〉のお客様だということが理解できた。

もう一つ気がついた点は、首都圏在住の利用者が少なくないことであった。首都圏在住の利用者は、50%近い構成比になっていた。とくに、観劇などを含んだ企画ものといわれる観光コースになると圧倒的に首都圏のお客様の割合が大きくなる。

こうして、これまで漠然と考えていた「都内観光客」像があったが、それとは異なるお客様がいて、定番コースとは違ったコースニーズが大きいことに気がついた。それに向けての対応に取り組んだ。

方針は決まり、これまでの定期観光の考え方を変えた。従来であれば、地方から東京を訪れるお客様相手に、名所旧跡を効率よく回ることや、バス車両の運用効率を図ることが事業の主たる関心だった。それに対して、お客様ニーズにきめ細かく応えることを考えた。

第一に、東京をより深く知りたいというお客様に対しては、非日常的な観光サービスを提供した。サプライズ&プレミアム感、高品質・優雅・都会的センスのある商品が開発された。朝食を築地、昼食を浅草、そして夕食を柴又でとる「江戸味覚食い倒れツアー」。六本木や新宿の夜を楽しむ「シンデレラナイト」。豪華ホテルでの昼食、映画会社とのコラボ、江戸城見学、講談師が案内する「激動の戦後“白洲次郎”探訪記」「年末恒例 東京フィル第九の調べ」といった1回限りのイベントツアーの企画も生まれた。心惹かれるテーマではないか。

定期・定番コースも、お客様の身になってきめの細かい配慮を組み入れた。東京滞在における「時間の合間を縫っての短時間の観光」に対応する観光スケジュールを考えた。ホテルでの朝食を終えたお客様をうまくピックアップして、終わりは17時をこえない。また、新幹線や航空機の接続や都内の宿泊地の利便を考えたスケジュールを立てた。ホテルでの宣伝ももちろん、怠りなし。

こうして、多様なお客様に「行き届いたサービスの提供を」という、お客様目線での対応が進んだ。99年から05年にかけて20%低下した売上高は、見事V字回復を達成した。

マーケティングの現実を見るフレーム(視点)を切り替えること、これがマーケティング・リフレーミングである。リフレーミングという言葉、もともとは臨床心理学の言葉であるが、それをマーケティング世界に転用した。リフレーミングを導く3つの要素が指摘されている。

第一の要素は、市場(そしてそれに係わる資源)の再定義(読み替え)である。書籍やチャネルの性格、都市観光バスの性格を読み替えた宝島社やはとバスの創意は、わかりやすいだろう。

第二に、市場との共創、つまり「市場とともに考え、価値を創出する」要素だ。市場との共創により、市場の再定義の効果が実質的につくりだされる。あげられている例は洗面台。生活者が溜め水洗いから流し水洗いへと洗い方を変えたのを見て、メーカーは水がはね跳ばない大きい洗面ボウルを提案した。大きいボウルの洗面台を使い始めた生活者は、その大きいボウルで小物の洗濯をし髪を洗い始めた。そうした生活者の新しい工夫を見て、洗面台各社は髪の洗える洗面台を開発した。古いケースだが、わかりやすい市場共創の例である。

第三に、市場にはそもそも、流れを反転させるパラドキシカルなメカニズムが潜在している。これが、リフレーミングを支える第三の要素になる。宝島社のケースでいうと、書店経営の苦境により、各書店は新しい立場を受け入れる土壌にあった。〈はとバス〉の場合には、都民の間で、はとバス見直し、地元東京再発見のニーズが徐々に生まれていた。市場の流れは単純ではない。時間の流れの中で、自ら流れを反転させる契機を常に潜在させている。

市場の、流れの反転のきっかけを探り見定め、市場を再定義し、そして市場との共創を図る。「絵に描いた餅だ」という声も聞こえてきそうだが、行き詰まりを感じる事業では、避けては通れない構図ではないだろうか。