“とことんゲストを信頼する”ディズニーランド

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 “夢の国”と謳われるディズニーランド。子どもから大人まで、その世界の虜になっている人も多いはずです。
 そんな東京ディズニーランドの初代ナイトカストーディアル(夜間の清掃部門)スーパーバイザーとして、ディズニーのクオリティサービスを実践し、その後、ディズニー・ユニバーシティ(教育部門)にて全スタッフの育成指導に携わった鎌田洋さんは、著書『ディズニー サービスの神様が教えてくれたこと』(ソフトバンククリエイティブ/刊)で、自身の体験を元にした4つのキャスト(スタッフ)の物語を通して、ディズニーの「おもてなし」の秘密に迫ります。

 いったい、なにがディズニーランドの、あの何度も訪れたくなるような「夢と冒険の世界」を創りだしているのでしょうか。鎌田さんにお話をうかがいました。今回はその前編をお送りします。
(聞き手/金井元貴)

■ディズニーランドのキャストは“ゲストから学びを得て成長する”

―まず、前作にあたる『ディズニー そうじの神様が教えてくれたこと』は10万部を超えるヒットとなりました。鎌田さんにも多くの反響が届いていらっしゃると思いますが、印象に残っている声はありますか?

「フェイスブックやメールなどを通して前作の感想をいただくのですが、涙が流れたという声が一番多いですね。また、私も同じ体験をしましたというメッセージを送ってくれる方もいたんですよ。だから前作や本書に載っている話は決して特異な例ではなくて、たまたま私が経験したもの以外にも、いろいろな物語がディズニーランドにはあるというリアルな反応を聞けたことが印象に残っています」

―そういった中で、前作が多くの方に受け入れられた理由を鎌田さんご自身はどうお考えですか?

「書いている段階から、活字が苦手な人でも読めるような本にしようというのはありましたね。物語も四編に分かれていて、一編ごとに区切れるので、非常に読みやすいと思います。
また、対象もビジネス書でありながら、老若男女幅広く読める本です。山形の中学校の副読本にもなりましたから、それくらい広範な方々を対象にしたことも良かったと思いますね」 

―副読本になったというのはすごいですよね。

「そうですね。現在は山形の中学校の半分くらいで採用されていると聞きました。また、私自身も東日本大震災の被災地の中学校にこの本を寄付したんですよ」 

―前作のインタビュー取材の反響としまして、自分も昔キャストをやっていて、今でも自分の仕事に誇りを持っているという声が多かったんですね。それはどうしてだと思いますか?

「私自身もいろいろなところで講演をしていると、自分もキャストをやっていたと言ってくる人がいるんですよ。そして、100%の人がキャストをやっていて良かった、楽しかったと口にするんです。おそらく、本人たちが現役でやっていた頃は、すごくつらかったと思うんですよ。けれども、やめて別の仕事についたとき、ディズニーランドの良さを改めて感じるのではないかと思います。仕事と言いつつも、純粋にゲストのために何かをする環境があって、そこには純粋な気持ちでゲストのために働いている自分がいたということに気づくからじゃないですかね」 

―本作は『ディズニー サービスの神様が教えてくれたこと』ということで、前作はカストーディアルがメインでしたが、今回は幅広い職務のエピソードが描かれています。登場人物の範囲を広げたのはどうしてなのでしょうか。

「最初の本で、カストーディアルの仕事であるそうじを通して書こうとしたのは、サービスとは何かということだったんですよ。ディズニーの理念に“We Create Happiness”というものがあります。お客様をハッピーにすることが、ウォルト・ディズニーが掲げた理念なのですが、それはカストーディアルだけでなくて、すべてのキャストのテーマでもあるんです。だから、カストーディアルはそうじを通してゲストにハピネスを提供していますし、ショップで働いている人も、ゲストリレーションズも、セキュリティも同じなんです。
そういう意味で、前作とテーマは同じですが、たくさんのキャストがいるけれどもディズニーで働くキャストたちの目的はたった一つだということを理解してもらうために、それぞれの職務に応じて“We Create Happiness”を実践する現場をつづったんですね」

―本書を読んでとても印象に残ったのが、物語の主人公の多くは一度失敗をして、ゲストから学びを得て成長する姿が描かれていたところです。この、ゲストから学びを得るという文化について鎌田さんはどのようにお考えですか?

「それはビジネスの原点ですよね。アンケートを取るのもゲストのため。声を受け取って至らない点を直していくわけじゃないですか。だから、ゲストから学ぶということはディズニーランド特有のものではないと思うのですが、ディズニーはその部分を徹底してやっているからすごいんだと思います。
ディズニーランドにはゲストロジーという言葉がありますが、それは徹底して顧客を知ることなんです。そして、知ることができれば、本当のゲストのニーズが分かってきます。“We Create Happiness”を現実化していくためには、いろいろな失敗があり、そこでゲストから教えられて向上していくものです。私が在籍していたときもそうでしたね。すべてはゲストから教わったことだったんですよね。だからこそ、もちろんこちらもゲストを信頼しなくてはいけないのですが、年間2500万人以上もの来場者がいますし、その全員がルールを守って下さるとはとは限らないでしょう。だから、時にはゲストに懐疑的な対応をする場面もありました。
でも、それは悲しいことですよね。だから、私がユニバーシティのマネージャーをしているときに、現場の教育担当者に「ゲストを疑うことはやめよう」、と投げかけたことがあります。それは、センセーショナルなことではありましたし、現場からは批判の声もあがりましたが、まずはゲストを信じることからやろう、と。」

―ディズニーランドでは、キャストがゲスト一人ひとりとしっかり向き合っていますが、それが来場するすべてのゲストと向き合うことになります。これは私の中ですごく不思議な感覚ですね。

「目の前のお客さんを大事にする文化はありますね。CS(顧客満足)の中で一番大事なのは、個々人の想像力なんですよ。今、目の前にいるお客様は何を思っているのか、それを想像する力ですね。東日本大震災のときの対応はそうした想像力が開花した例だと思います」

―本書を執筆するにあたって、気をつけたことはなんですか?

「エピソードをそのまま表現するというより、ディズニーのサービスの本意を浮き立たせることを大事にしました。ストーリーの流れに読者の目がいって、ディズニーの本質が薄れてしまわないように気をつけましたね」

(後編に続く)