自分たちの報道で日本の政治を良くしたい

ビジネスパーソン研究FILE Vol.175

株式会社テレビ朝日 澤井尚子さん

報道局ニュースセンターで番記者として活躍中の澤井さん。そのやりがいとは?


■編成制作局に配属となり、番組を“支える”仕事を担う

澤井さんが最初に配属となったのは、編成制作局編成業務部。番組制作費の予算管理など、制作現場をサポートする仕事に就いた。扱う予算額の大きさに最初はたじろいだが、先輩の下で一つずつ仕事を覚えていった。
「赤字の番組があれば、その理由を解明することも自分の仕事。でも、ただでさえ複雑な赤字の理由を、現場の苦労も知らない新人の私がプロデューサーに聞いても、なかなか本音を聞き出せないし、理由を解明するにも番組制作の経験、知識が必要。そのころから『現場を知りたい』という思いが湧いてきました」

3年目には、同じ編成制作局の編成部に異動した。視聴者・アドバタイザー(広告主)・番組制作の三者を取り持ち、ビジネスとしてもコンテンツとしても“良い番組”にするための指揮・調整をするのが編成の仕事。これらを高いレベルで並び立たせるために、関係各所の意見を聞き、番組をベストの方向へ導くよう日々奮闘した。

中には、関係部署のニーズが相反することもある。営業サイドの要望と、制作現場の意向とを汲みとり、両者の橋渡し役となるのも大事な仕事のひとつ。また、番組内で提供スポンサーの競合商品が映ることのないよう、事前に制作現場に注意を促したり、放送前に内容を確認したりするのも大切な業務。バランス感覚と柔軟性、先を読んだ細やかな気配りが求められる。
「ほかにも、番組コンテンツを二次使用する際の関係部署と制作現場との調整、事故や災害発生時の速報対応や特番編成など、業務は多岐にわたっています」

担当番組の視聴率アップを目指し、澤井さんは、他局を含めてあらゆる番組をチェックし、どんな番組の視聴率が高いのか、どんなときに視聴率が上がっているのか、などを徹底的に研究。時には放送枠の変更といったチャレンジを行うこともある。
「視聴率が低ければ、営業はクライアントにおわびに行かなければならないし、場合によっては番組が打ち切りになることもあり得る。 それだけに“視聴率を取る”という、編成部としての責任を果たすことができたときは、ホッとします」


■念願の現場部門へ異動。番記者としての“やりがい”を実感

6年目。希望がかない、澤井さんは現場部門へ異動。配属は報道局ニュースセンター。

ニュース報道番組に携わる部署への配属が決まり、「『ようやく現場に行ける!』とうれしく思いました。でも、番組制作の担当だろうと思っていたら、なんと政治部の記者。政治はまったくの素人でしたから、ビックリしました(笑)」

現在は、与党担当記者の一員として、民主党の輿石幹事長を中心に取材。定例会見から、自宅宿舎前や国会議事堂内、国内外の出張にも同行し、番記者として1人で駆け回る目まぐるしい毎日だ。
「記者の使命は、番組の素材となる一次情報を集めること。会合場所から出てきたときの表情が険しかったり言葉が少なかったりすると、話し合いがうまくいかなかったのだろう、など一挙手一投足や表情の変化にも重要なヒントが隠れています。だから、片時も目を離さないよう心がけています」

幹事長室で誰かと面会していれば、幹事長だけでなく面会者にも話を聞くなど、周辺にも取材して多角的に情報収集することも重要。政治部のほかの議員担当記者とは常に連絡を取り合い、チームプレーでいち早く正確な情報を発信している。
「国会内の廊下を歩いている時にも、記者が取材対象者を取り囲んで話を聞くことがあります。『ぶら下がり』という形式の取材です。5分程度の話なら、廊下でパソコンを開いて、10分後には政治部の記者と情報を共有します。ほかの記者から随時入ってくる情報に基づいてすぐに裏取り取材に動くことも。業界用語では『落とす』と言いますが、輿石幹事長が話したことを私が知らずに、他社が報道するようなことがあってはならないので、一時たりとも気が抜けません」

映像が必要な取材にはカメラマンを手配するが、間に合わなければ、手持ちのコンパクトビデオカメラで自ら質問しながら録画も行うこともある。とにかく素早く、臨機応変に自分にできることはすべてこなす。さらに週に1回程度は、テレビ中継のレポートも担当している。
「番記者として、とにかく常に同行して顔を覚えてもらい、取材対象者との距離を縮めることが基本。そのうえで、いかにいい情報を引き出せる質問をするかが腕の見せどころですね」

担当記者となって半年、2012年の年始企画で、輿石幹事長が自宅でご家族と過ごす様子をレポートする出演交渉に成功した。
「当初は『妻が嫌がる』と難色を示されましたが、素の姿を見せることで国民の親近感を得られる、2012年の抱負を国民に広く語ることができるチャンスであると説得し、承諾していただきました。その取材は1月3日の『スーパーJチャンネル』で放映され、お孫さんに接するときの幹事長のやわらかい表情がとても印象に残っています。時間のない中での交渉は大変、かつ関係者にもご迷惑をお掛けしましたが、この取材を通じて、幹事長にさらに一歩近づけたように感じました」

取材対象者をひたすら待って夜遅くなることもある。結婚したばかりの澤井さんだが、「政治部には子どもを持つ先輩女性記者がいるし、報道局に限らずテレビ朝日にはワーキングマザーが多いので、何かと心強い」とのこと。
「仕事でやりがいを感じるのは、自分が取材した情報が報道されたとき。自分たちの報道で、日本の政治さらには国民生活が良くなることが理想です。将来的な目標は、番組制作を手がけること。記者として一次情報の取り方がわかってきたので、将来的には一次情報を生かした見せ方・切り口を考えられるディレクターとなって、たくさんの人に見てもらえる番組をつくっていきたいですね」