■Gさんの悩み

大手金融機関に勤めるGさんは、リストラ要員にリストアップされたことを最近痛烈に感じている。肩たたきの屈辱を受ける前に条件のいい希望退職制度に応じるべきか、このまま肩たたきされるまで居残って、できる限り長く高収入をもらい続けるか。男として格好いいのは希望退職に応じることだと思っている。それに会社は再就職先を斡旋すると約束しているので、現在の半分弱600万円程度の年収は確保できそうだ。退職金で高級マンションの住宅ローンが完済できるので身軽になれる。

■藤川太のアドバイス

家族の生活がかかっている男の進退は格好で決めるものではない。充分に退職後のプランを練ることが重要である。

一度高くなった生活レベルを下げることは容易ではないが、Gさんは高収入なのに月々の貯蓄が2万円しかできなくて不安に感じていること、質素な生活を覚悟していること、妻も同じ気持ちでいることから、生活のリセットと再構築は比較的容易にできそうだ。

退職するうえで障害となるのは就職しようとしない2人の息子が“寄生”していること。就職に失敗した上の息子はフリーター暮らし、下の息子は大学院に進学したいと言う。

では住宅ローンを完済することで実現できる年収600万円の家計とはどのようなものか。この家計は将来の年金生活のリハーサルの役目も果たす。

まずやるべきは子どもたちを独立させること。永遠に“寄生”することはできないのだから、金融機関を退職することで2人を養う余裕がなくなることを説明しよう。

理想はフリーターの息子には正社員の仕事を探させ、大学院に進学したい下の息子には奨学金を得たりアルバイトをして自分の面倒は自分で見るように仕向けることだが、子どもたちだっていきなり放り出されては路頭に迷うだけだろう。当面は自立を促しつつも同居を許し、その代わり一定額の生活費を入れさせるといった妥協案も用意しておこう。

仮に夫婦2人の生活になることができれば、固定費と日々のやり繰り費の両方を大幅に削減できる。

まず退職金で住宅ローンを完済したので月々の支払い分の18万円がなくなる。おかげで月給が半減しても生活が成り立つわけだ。

子どもが自立すればむやみに夜更かししなくなるから水道光熱費も減るはずだ。教育費はもちろんゼロに。ちょこちょこと子どもたちに与えていた小遣いも不要になる。

保険は子どもが成人して巣立って役目が終わったので、必要なものを残して解約する。今後は妻の生活さえ保障されればいいので、少なくとも死亡保障は大幅に削減できる。これで計28万円も削減できる。

このほか、通信費や交通費も減らせる見込みがある。

やり繰り費では食費の削減が中心になる。50代夫婦の食費は外食費込みで6万円あれば充分。年齢的に見て保健医療費はこれから増えるだろうが、とりあえずは手を付けないでおこう。

浮いたお金は貯蓄に回して老後の備えを増やすことに全力をあげる。月々の貯蓄は3万5000円増やして5万5000円に。年間では66万円、60歳までの7年間では462万円の貯蓄ができる。退職金を住宅ローンの完済に充ててしまったので、老後資金は自力で用意するしかない。Gさんは金融機関勤めなので世間一般に比べて年金額は多いはずだが、今の年齢で転職して、年収が半減した場合はどのくらい減額になるのか。この点も事前に調べておく必要がある。

ボーナスが5分の1に減るため今までのように68万円の貯蓄はできないが、ボーナス分の住宅ローンと教育費が消えるので33万円は確保できる。収入は5分の1に減っても貯蓄は2分の1減で済むわけだ。もし7年間33万円貯め続けることができれば231万円で、毎月の積立分と合わせて合計693万円になる。

しかしGさんにとってベストな選択は、すぐに希望退職には応じずに、状況が許す限り現在の職場に残ること。その間に子どもたちの独立を促し、同時に年収が下がる前から年収600万円の生活(住宅ローン返済が加わるので実際には900万円程度の支出になる)を実践して、とにかく貯蓄を増やすことである。高収入高支出の生活に長年漬かっていると節約生活に慣れるのにも時間がかかるので時間稼ぎは必要だ。

それに今は希望退職に応じて再就職できたとしても、そこで再リストラされるリスクがあるので、できれば現状を維持したい。

■年収1500万円世帯が
陥りやすい家計の病気

高エンジェル係数症

症状:子どもの教育費やおけいこ事、塾代、洋服代などが家計の中で高い割合になることで発症する。自分たちに関する支出は抑えても、子どもにはいい環境を提供したいという考えの人がかかりやすい病気。こじらせると子どもがニート化し、家計が圧迫されたり、教育ローンを借り老後資金を圧迫することも。

原因:子どもに投入するお金の量と愛情をはきちがえている。

治療法:高収入の家庭ほど金銭的に甘やかしがちで、子どもにとって居心地がいいため、経済的自立が遅れるケースが多い。文部科学省の「こどもの教育費調査」などの統計を活用し将来かかる教育費の目安を知ることである程度は予防できる。注いだ金額と比例して子どもが幸せになるわけではない。費用対効果を考えて、冷静にお金を投入しよう。

ITリテラシー欠乏症

症状:多くの資産を持っているが、収入はさほど多くない人に多い病気。逆に高収入の人で発症する人は少ない。この病気にかかっている人は有利な条件でできる金融取引の存在を知らないことが多く、知っていたとしても「怖くて」使えない。

原因:インターネットに苦手意識があり、知識が欠落している。

治療法:インターネットを使うと、さまざまな金融情報が簡単に得られる。また、ネット上で営業する銀行や証券会社は、店舗型の金融機関よりも有利な条件のサービスを提供している。1億円を運用するのに利回りが1%高ければ年100万円も利益が増えるのだから、資産が多い人ほど活用しなければ損だ。年をとるごとに新しいことを覚えにくくなるため早めの治療が肝心だ。パソコン教室に通ったりテレビのパソコン講座で勉強してインターネットに慣れ、積極的に活用すること。

※すべて雑誌掲載当時