毎回、即戦力の実力派新人を創出する松本清張賞から驚異の新人が登場した。本日発売になった『烏に単は似合わない』(文藝春秋)の著者・阿部智里はなんと20歳。現役の大学生である。
 舞台は八咫烏が支配する世界。普段は人の姿をしているが、何かあれば烏に姿を変えることもできる。このたび、宗家の若宮の后選びが行われる運びとなり、有力貴族である東家、西家、南家、北家から姫が一人ずつ選出され宮廷の桜花宮へ登殿の運びとなった。
 東家の二の姫は、疱瘡を患ってしまった姉、双葉の代わりに急きょ登殿することになる。体が弱く、子供のころから人と交わったことのない二の姫は、周りの姫たちから無知ぶりを笑われるばかり。仮名もないため今上陛下の妻、大紫の御前から「あせび」という麗しくない名前まで付けられてしまう。
 物語は選ばれた姫たちの人となりや恋のさや当て、各家の勢力争いが絡み合い絢爛豪華に進んでいく。ファンタジックな世界とはいえ、人に良く似た世界では、同じように陰謀が渦巻く。
 それが、あるところから変わり始める。あれよあれよという間に世界が逆転する。読み始めと終わりでは、口の中の味が間違いなく違う。必ず冒頭に戻って読まなくてはいられなくなる。
 作者はかなりの読書歴を持つだろうと推測されるが、それを見事に自分の血肉としていて、見事としかいいようがない。今年後半の注目作になるのは必至である。若い才能の登場を喜びたい。

(東えりか)



『烏に単は似合わない』
 著者:阿部 智里
 出版社:文藝春秋
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