入社一年目は“先輩の仕事を目と耳で盗む”ことが大事

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 現陸前高田市副市長の久保田崇さん昨年執筆した『官僚に学ぶ仕事術』『官僚に学ぶ勉強術』の2冊の本は、現役官僚が執筆した仕事術の本として瞬く間に話題となり、ベストセラーとなりました。
 そして3冊目となる本書『私が官僚1年目で知っておきたかったこと』(かんき出版/刊)は、書籍名の通り“入社1年目”や若手社員・公務員に向けて書かれた一冊。官僚として困難な現場を潜り抜けてきた久保田さんが伝えたい、仕事の基本とは? 久保田さんにお話を聞いてきました。今回はそのうちの前編をお届けします。

前編:一年目は“先輩の仕事を目と耳で盗む”ことが大事

―昨年『官僚に学ぶ仕事術』シリーズを2冊出版されて、多くの方に読まれました。まずは、前著が話題になった理由について久保田さんはどのようにお考えですか?

「現役の官僚が書いた本自体が少なかったからというのは理由の一つだと思います。官僚が書いた本ですと、だいたいは辞められてから暴露本を執筆したりしますが、現役の官僚が前向きに仕事を語る本はほとんどなかったですから、そうした部分が受け入れられたのだと思います」

―確かに官僚がどんな仕事をしているのか、一般人視点から見れば気になります。

「そうなんですよね。官僚がどんな仕事をしているのか、あまり知られていないところがありますから。残業が多いといっても何をしているのかと。そうか、国会答弁資料を徹夜で作っていたのかと。そういった意味でも関心が持たれていたのだな、と」

―本書も官僚の仕事についてつづられていますが、官僚や公務員だけでなく一般企業のビジネスパーソンにも応用できる、参考にできる部分が多くありました。ここでおうかがいしたいのですが、官僚と一般会社員の大きな違いはどういう点にあると思いますか?

「官僚や公務員は物を売らなくてもいいので、会社員と比べて売上などを気にしなくてもいいという部分はありますね。ただ、だから楽かというとそうでもないと思っていて、常に議会にコントロールされているんです。議会の存在というのは、一般企業で言うと株主総会みたいなもので、権限を持っている人は投票で選ばれた議員なんですね。だから、議会で決議したことによって色んなことが大きく変わります。
しかも、株主総会は年に1回ですが、官僚の場合だと1年の半分は議会が行われているので、株主総会が1年に半分くらいずっと行われていると想像していただければ…(笑)」

―それはおそろしいですね…。

「1年に半分は常に議会と緊張関係にあって、常にどう質問されて追及されるか分からないというスリリングな毎日を送っていますから、そこが一番の違いかも知れませんね」

―では、逆に共通している部分はなんだと思いますか?

「こちらはたくさんあります。公務員の世界も比較的大きな組織でして、私が現在副市長を務めている陸前高田市も小さな市ではありますが300人の職員がいます。そうなると、市内でも最大級の組織になりますし、国家公務員単位だと何万人もいることになりますよね。だから、非常に大きな組織なので、組織内での仕事のやり方や人間関係の築き方は必ずあるはずですし、そういった部分は一般会社員と変わらない部分だと思いますね」

―つまり、組織は組織であり、その組織のやり方がある、と。本書でも耳をダンボにして周囲の声を聞いて、人間関係をつかめと書かれていましたが、そういった部分は実際に教えてもらえるものではないですよね。一般企業も公務員もそれは同じである、と。

「そう思いますね。公務員の世界は入ってからOJTというか、何ら研修せずにいきなり法律作りをさせられたりするんですよ。私も法律を勉強した上で入省しましたが、実際にどうやって作るかは誰も教えてくれません。ですから、先輩がどう仕事をしているのか、見てみぬふりをしつつ横目で見て覚えていくということが大切だと思います」

―先輩の仕事を見て「盗む」という感じですね。

「まさしくそういう感じです」

―この本は、そういったまだ仕事のやり方が完全盗めていない若手や入社一年目の社員にとって、とても参考になることが書かれていると思いましたが、実際にどのような方を想定して執筆されたのですか?

「具体的には入社、入庁一年目の公務員の皆さんをイメージしました」

―そうした社会人一年目の方々に対して、久保田さんはどのような印象をお持ちですか?

「まず、優秀な方が多いですよね。ただ、大人しい方も多くて、物分りが良いといいますか、『この仕事をやって欲しい』とお願いすると素直にきちんとできちゃう。でも、逆に突っかかってこないというか、『なぜこの作業が必要なんですか』『こういうやり方でやってはいけませんか?』と聞いてくることもあまりないですね」

―上司としてはそういう風に言ってきて欲しい。

「そういうところもあります(笑)。言って来ないからといって、何か問題があるわけではないのですが」

―久保田さんは、入庁当時はどのような職員だったのでしょうか?

「私もいろいろな失敗をしましたよ。ただ、色々なことをやらせてもらえたのは良かったですね。色々なことを教えてもらいに行く過程で、ちょっとやりすぎて怒られたりもして(笑)。たとえば、聞きたいことがあったため、課長補佐に何度も電話をしていたんですよ。そしたら、普通は一番下っ端の係員が課長補佐に電話をかけてこないものだと総括課の幹部に怒られたりしましたね。面白い経験をさせてもらえたと思います」

―仕事は、一回経験しないと分からない部分がたくさんありますよね。

「本当にそうだと思います」

―久保田さんが官僚を志したきっかけは?

「自分は京都の大学に通っていたのですが、その頃、「京都会議」という京都議定書が取り交わされた地球温暖化防止についての国際会議が開かれていたんですね。ちょうど良い機会だったので、傍聴者として出席をして温暖化交渉を見学していたのですが、当時、二酸化炭素の削減目標を決めるために、環境庁(現在の環境省)と通産省(現在の経済産業省)がものすごい対立していたんですよ。通産省は産業界の意向があるから、なるべく二酸化炭素の排出量を抑えたくないんですね。そういうことを目の当たりにして、政策づくりは複雑だけれどももう少し上手くできないものか、と思ったのがきっかけですね」

―キャリアをスタートしたとき、最初に当たった壁って覚えていますか?

「やはり上司との関係ですね。自分が進めようと思って書類を見せても、全く見てくれないとか。なんでそうするんだろうと悩んだこともありました」

―その壁をどのように突破しましたか?

「自分本位で仕事をしていたことに気づいたんですよね。自分に割り当てられた仕事をすればいいという感覚は自分がアルバイトであれば問題ないのでしょうけど、正社員、組織の一員として仕事をする場合は、組織全体、例えば課全体がどういう仕事をしていて、今、上司はどんな問題を対処していて何を一番優先しようと思っているのか、ある程度推測してあげないといけない。上司も焦っているときがありますから、優先順位が低い書類が出てきましたと言われても、見てもらえないのは当たり前ですよね。そういった配慮ができるようになると、仕事は回りだしていくと気づいたんです」

「中編:「会いたい人に会える」のが官僚のメリット」へ続く