ODAを通じて、途上国と日本の未来に貢献する

WOMAN’S CAREER Vol.87

独立行政法人国際協力機構(JICA) 眞田明子さん

【活躍する女性社員】3年半のバングラデシュ駐在後、帰国。ワーキングマザーとして活躍する眞田さん


■先輩・同僚の多様な働き方を参考に、自分の専門性を高めていきたい

日本を代表するODA(※)実施機関として、世界の150を超える国や地域に対して、有償・無償の資金協力や専門家派遣を中心とした技術協力などの援助を行う国際協力機構(JICA)。開発途上国が抱えるさまざまな課題の解決に向け、相手国政府とともに援助戦略を策定し、具体的なプロジェクトを発掘・形成。その後、相手国からの要請を受けて外務省など関連省庁と協議し、プロジェクト実施が決定されると、その実施を担う。眞田さんはJICAで、都市環境分野などでのプロジェクトの実施に向けた調査や計画立案、実施監理に10年近く携わってきた。
「現地の状況を踏まえながら調査し、現地に合った支援方法を検討して課題解決のための計画を立案、相手国政府とプロジェクトの内容や実施体制について協議を行い合意を形成します。その後、実際に現場で調査や技術協力プロジェクトの活動を担う専門家を公示などで選定し、現地に派遣。プロジェクト実施中は、計画どおり活動が実施され目標達成に向かっているかを確認したり、必要に応じてプロジェクトの軌道修正を検討したりと、現場の専門家と協力しながら、プロジェクトがより効果的かつ適切に実施されるようサポートします」

眞田さんは入構後約3年間、東京にあるJICA本部で都市環境分野を中心とした開発計画の策定調査に携わった後、バングラデシュ事務所へ。そこでの3年半が自身の仕事の意味を実感する経験になったという。最も印象に残っているのは、首都・ダッカ市の廃棄物管理能力強化プロジェクトだ。
「日本も昔はそうでしたが、ダッカでは少し前まで、生ごみを家の周りに捨てても家畜が食べてくれたり、時間をかけて土に返ったりという自然の循環がうまく機能していました。ところが、都市化や経済発展に伴いごみの量が増えるとともに、生活スタイルの変化によりごみの種類が多様化するなど、ごみ問題が深刻化していったのです。事態を重く見たバングラデシュ政府の要請を受け現地調査を行うとともに、ダッカ市側と廃棄物管理体制や課題、日本が可能な支援について協議を重ねました。その結果、市の組織体制づくり、収集の効率化、衛生的に埋め立て処理ができる処分場の整備・運営、住民参加による衛生的なごみ収集の仕組みづくり、財務改善などの課題に取り組むため、日本から専門家を派遣し指導を行う技術協力プロジェクトを立ち上げることになったのです」

そうしてプロジェクトを進めていく中で、眞田さんは現地の人々の意識が変化するのを目の当たりにしたという。
「廃棄物管理を担当する市の職員の中には、当初ごみ問題は収集車両を増やせば解決すると言っている人もいました。しかし、JICAと議論を重ね共に活動をしていくうちに、いくら収集車両があってもそれを動かすための組織や仕組みがなければ車両を活用することはできず、住民にきちんとごみを出してもらわなければ街はきれいにならないということを実感したようです。さらに、街に放置された廃棄物が市民の生活に及ぼす影響の大きさに気づき、『住民に協力してもらえるよう信頼関係を築き、ごみの回収・処理を適切に行っていかなければならない』と、行政を担う者としての使命感を持って取り組む職員が増えていきました。また、市の中に新しく廃棄物管理局が設置され、地域住民の意識も変化。それはひと言では表現できない、関係者の努力の積み重ねの結果であり、現場はドラマの連続。そのプロセスを目の当たりにして、JICAの仕事は組織やそれにかかわる人々の意識までも変えていく、影響力の大きい仕事なんだとあらためて実感しました」

さらに、過去の日本の支援に対する感謝の言葉をかけられることも多く、途上国での日本の存在感の大きさも肌で感じた。
「多くの人が日本製品に憧れを抱いていることを日常生活で感じ、過去に日本の支援で建設された橋のメンテナンス状況を見に行ったときなどに、『この橋のおかげで生活が一変したよ、ありがとう』などと、地元の人たちから声をかけられることも。自分の仕事はもちろん相手国のためであるけれど、日本のためでもあるということを強く感じました。日本への信頼感をさらに高める仕事を積み重ねていくことで、日本のブランド力が維持されたり、将来日本企業が進出できる市場を広げることにつながったりしているのです。外から日本を見たことにより、『途上国のため、そして日本のためにも頑張ろう』という意識が強くなりました」

このような経験を通じて眞田さんが磨いてきたこと、それはコミュニケーション力だ。プロジェクトには、相手国の行政官やJICA職員だけでなく、日本の関係省庁の担当者、現地に派遣される専門家など、何十人もの人がかかわっている。JICA職員はプロジェクトの中心で関係者を動かすことでプロジェクトを進めていくが、入構当初はコミュニケーションをうまくとれず「つまずきの繰り返しだった」という。
「今でこそ、全体を見て関係者の立ち位置を把握し、相手の立場を踏まえた調整や対応をする、スムーズにやりとりができるような人間関係を日ごろからつくっておく、といったことが業務の中で自然とできるようになりましたが、最初の2〜3年は、後から『こうしておけばよかった』と反省することばかりでした。経験を積み、都市環境やインフラ分野に関する専門知識や、プロジェクトを計画・実施するために必要な知識も蓄積されてきたことで、相手の発言の背景を理解できるようになったことも大きいのかもしれません。JICAの人間として相手にとって意味のあるインプットができるようになり、途上国政府の担当者などとも少しずつ信頼関係が築けていることを実感できるようになっていきました」

そして現在、眞田さんは出産・育児休業を経て、調達部で契約制度の整備・改善に携わっている。今度はJICA本部でさまざまな国や地域、分野で実施されるプロジェクトを契約面で支える仕事だ。子育てと仕事を両立したいと考える眞田さん。多様な働き方を認めてくれるJICAの環境に感謝しているという。
「私の場合、娘の保育園入園の都合もあり出産後約半年で復帰しましたが、事情によって1年半〜3年ほど休む人もいれば、育休明けに子どもを連れて在外事務所に赴任する人もいます。それぞれの事情や考え方を最大限考慮してくれる環境は、組織としての努力はもちろんのこと、過去にさまざまな葛藤や多くの努力を重ねながら、仕事と家庭の両立を続けてきた先輩たちが実績を積み上げ、道を切り開いてくれたおかげだと感じています。ひと言で仕事と家庭の両立と言っても、軸足を仕事や家庭のどのあたりに置くのか、その選択肢はさまざま。私自身、まだ模索中ですが、仕事においては、国際協力のプロフェッショナルとしての強みや専門性をしっかり身につけていきたいですね。技術的な専門分野なのか、プロジェクトを支える専門分野なのか、それ以外なのかはまだわかりませんが、JICAには手本となる先輩や同僚の女性がたくさんいるので、皆さんを参考にし、相談に乗ってもらいながら自分のキャリア形成を考えていきたいと思います」

※ODA:政府開発援助(Official Development Assistance)の略で、開発途上国の社会・経済の発展に向け、政府が行う資金や技術の提供を通じた協力のこと。日本のODAは、主に「技術協力」「有償資金協力」「無償資金協力」の3つの形態がある。「技術協力」は、専門家の派遣や日本での研修などによる、開発計画の策定支援、組織体制の整備や技術向上のための指導といったソフト面での協力、「有償資金協力」は、低利かつ長期の緩やかな条件で主に大規模インフラ整備などに必要な開発資金の貸付を行う協力、「無償資金協力」は、基礎インフラの整備や医薬品、機材調達に必要な資金を無償で提供する協力のこと。