一日のなかで最も絵画と向き合っている人とは誰でしょう? 絵画の研究者、それともコレクター? もしくは絵を描いた本人?

 その答えは、美術館の監視員ではないでしょうか。一日中絵の前に座り、絵画を見つめ、絵画を守り続けているのです。画家のことを知るためには、何十時間・何百時間かけて作品と向き合う必要があると言いますが、画家は膨大な時間を絵画の監視に費やしています。そういう意味では美術館の監視員は、画家本人以上に画家のことを知っているのかもしれません。

 監視員は朝から晩まで、自分の持ち場から離れることはできません。そこにはどんな刺激や変化、事件もありませんし、あってはなりません。体感する時間の流れは、想像以上に長いことでしょう。

 第25回山本周五郎賞を受賞した原田マハさんの『楽園のカンヴァス』に登場する早川織絵も監視員。日本屈指の西洋美術コレクションを所蔵することで知られる大原美術館に勤める彼女は、毎日、鑑賞者が静かな環境で正しく鑑賞するかどうかを見守っています。最低限の作品紹介はしますが、緊急に対応しなければならないトラブルなどが発生した場合は、無線で警備員や事務室に連絡し、誰かに来てもらいます。あくまで監視員は、作品や展示環境を守るために持ち場にいる専門家なのです。

 同書では、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンと日本人研究者の織絵が、アンリ・ルソーの作品『夢』とうり二つの作品を真贋判定します。正しく判断すれば、この絵の取り扱い権利を譲渡してもらえます。与えられた期日は7日間。2人の前にあらわれた絵は贋作? それとも......。

 自身もMoMAに勤務したことがある著者の原田マハ氏。その実体験からくる美術界の描写には目を見張るものがあります。見所たっぷりの絵画鑑定ミステリーです。



『楽園のカンヴァス』
 著者:原田 マハ
 出版社:新潮社
 >>元の記事を見る



■ 関連記事
『さらば雑司ヶ谷』樋口毅宏氏の最新作に騙されるな?
俳優・犬飼若博がつづる最強妻・犬嫁との赤裸々な日々
もし「妻が死んだふり」をしていたら、あなたはどう返す?


■配信元
WEB本の雑誌