家計の病気119番【年収1000万円世帯】

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Eさんの悩み

大手システム会社に勤めるシステムエンジニアのEさんは、リストラされずに生き残った「勝ち組」。しかし不況期に会社を去った仲間も再就職ができずに地獄を見ているが、残ったほうにもつらい日々が待っていた。大手企業は仕事量が減ったためのリストラは過去に何度も行っていてすでに適正以下の人数で仕事を回している状態。そこから一段のリストラを行ったのだから、仕事量は格段に増えた。会社は現場の状況を無視して「効率よく仕事をするように」と言うばかり。もちろん残業代はカットされて収入は横ばい状態。精神的にも肉体的にも耐えられないところに来ている。

藤川太のアドバイス

Eさんは膨大な仕事量の処理に追われて、いつ心が折れてもおかしくない状態に追い込まれている。それは妻も同じ。収入は横ばいなのに教育費などの出費は増える一方で、家計簿は理想とはほど遠い。とはいえ世間的に見れば高い1000万円の年収があるのだから「家計管理すらできないダメな妻」と自分を責め、落ち込んでいる。

ただEさん夫婦は多感な時期を迎えた子どもが私立中学に入学したばかりなので、転校だけは避けたいということで思いが一致している。

しかし残念ながらEさんに選択肢はほとんどない。年収ダウンを覚悟して会社に地方転勤を願い出るか転職するかだ。現在の年収を維持しようとすると忙しさも変わらないので、家計を見直すことで減収分を乗り切るしかない。そこで転勤や転職で収入が30%減の年収700万円になっても耐えられる家計を考えよう。

最初にやるべきことは、年収が1000万もありながら毎月の貯蓄がほとんどできていない原因の解明だ。

まず考えられるのは固定費が高いことだ。非常事態なのだから徹底的に削ろう。車を手放す。教養娯楽費を削る。高めだった夫の小遣いも半減させる。これらを見直すと毎月8万1000円もの削減になる。

保険の見直しも必要である。子どもが大学を卒業して社会人として自立するまでの8年間だけ保障を厚くしておけばいいので、「年収700万円」のケースで取り上げた逓減型収入保障保険などに切り替えて1万4000円削る。それに夫に万が一のことがあっても正社員でいれば死亡退職金や遺族厚生年金なども支払われる。このような死後の収入を加味すれば、妻子がすぐに生活に困窮することはないだろう。

次に日々のやり繰り分の削減。具体的には食費を抑えることである。専業主婦の利点を生かして外食を控えて、内食に徹する。食材リストを作成して余計な買い物をしないように努めたり、食材も安いものを選んで買う。事前に献立を考えてスーパーに行ったとしても、その日に安売りしている食材があるのなら臨機応変に献立を変更するという柔軟さも必要である。こうした工夫をすれば2万円程度浮くだろう。また、被服費もかかりすぎなので、ブランドものにこだわらずに、高品質で安い衣料を探す努力をする。新たにつくった家計では貯蓄のみ5000円増やしたが、トータルでは11万7000円の削減になっている。

転勤・転職するとボーナスが減ることも覚悟しなければならない。私立中学の授業料分は残して、旅行費用やその他の消費支出を半分にカット。車を手放したので自動車税や自動車保険料なども不要になった。貯蓄も2万円に減り心細いが、当面はこのプランで乗り切るしかない。

年収1000万円の生活を700万円の生活に“ソフトに”ランクダウンさせるためには、生き方を根本的に変える必要がある。

状況が許すのであれば、地方都市で暮らして全体の生活費を抑えることも考えるべきだ。子どもも公立中学に転校させ、公立高校を目指して教育費を削減する。父親の転勤・転職による引っ越しという理由付けがあれば、子どもも私立中学を辞めることを納得しやすい。また、地方の公立高校の進学校は、予備校代わりに補習を行ってくれるところも多く、大学の受験勉強も格安でできる。

Eさん世代は自分の父親がモーレツ社員だったはず。ほとんど家に帰ってこなかったけれど、働きに応じて収入が増える時代だったので家を買い、車を買い、家電製品を充実させるという「夢」を実現させることができた。Eさん夫婦はそれが「普通」だと思い込んでいて、自分たちもゼロからスタートしてモノを充実させるという夢を実現できなければ負け犬になると思い込んでいる。

もう時代が違うと認識して、モノの豊かさではなく、家族の絆のような精神的な豊かさを追求する生活に切り替えるべきだろう。

年収1000万円世帯が
陥りやすい家計の病気

過去のことばかり気になるで症

症状:過去に払ったお金がもったいなくて仕方ない病気。戻ってこないお金にこだわるあまり、今、損をしていることに気づかない。運用と生命保険の分野で発症例が多い。

原因:未来に頭を切り替えられず、過去の清算ができない。

治療法:運用では100万円で買った株が30万円に値下がりしたというときに発症する。すでに100万円という買値には意味はないが、保有していればまた元に戻るかもと期待してずるずる損を広げていく。生命保険では、これまで払った保険料がもったいなくて、掛け捨ての保険の見直しができない。掛け捨てだから過去の保険料を考えても意味がないことに気づくべきだ。過去のことはないものとし、これからの選択はどれがベストなのかを熟考すると呪縛から逃れることができるだろう。

汚財布炎

症状:財布の中がレシートでパンパンで、型崩れして汚くなっている。使うばかりで貯まりにくい人の財布に多く、お金で苦労しやすい。

原因:お金に無頓着なせいで財布の状態にまで気が回らない。

治療法:お金に興味のない人がかかりやすい病気。財布はお金との接点であり、身に着けて歩くことが多いだけに、その人のお金に対する考え方が表れやすい。異性関係と同じく、お金もマメな人を好む傾向がある。お金にも「心」があると自覚し、大切に扱うことを心がけよう。治療法は、財布の中の整理整頓を心がけること。お札の向きを揃えて入れ、レシートはまめに取り出して整理保管する。なるべく小銭から使い、財布がパンパンにならないよう注意しよう。この機会に新しい財布に替えるのも効果的だ。不思議なことに、財布が変わるとなぜか金運もよくなっていくものだ。

※すべて雑誌掲載当時