「日常メールの説得力」は英文流で決まる【2】

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読み手によって解釈が異なる「あいまいな表現」を避けて「具体的に書く」ことも英文流のポイントの一つだ。

日本語のメールにもとり入れたい、英文メールの長所について、くわしく見ていこう。その軸となるのが、「用件(伝えたいこと)」を冒頭に書くことだ。

たとえば、「納期を早めてほしい」と頼む場合、日本語では「弊社としても最大限の努力をしておりますが……」などと、言い訳を長々と並べてから、「つきましては納期を」と本題に入りがちである。だが、こういう回りくどい書き方だと、読み手にメールの趣旨が伝わりにくく、行き違いが生じる恐れもある。

一方、英文メールでは、「納期の件でメールいたしました」と単刀直入に切り込み、その背景や詳細を説明してから、「結び」で念押しする。極めて論理的かつ合理的な書き方なのだ。

この文章構成を日本語メールに応用した場合、「あっさりしすぎて、冷たい印象を与えるのでは?」と心配する人もいるだろう。

しかし、ビジネスメール教育のエキスパート、平野友朗さんは「日本語でもこれで十分。メールはビジネスライクでいいんですよ」と、英文流に太鼓判を押す。

「『何をしてほしいのか』を先に書いて、なぜならば……と理由を続ける。それは日本語メールでも同じです。ビジネス上のやりとりなので、へりくだりすぎる書き方はよくない。用件が伝わりにくいし、バカにされているように受け取られることもありますからね。ただし、用件によって、多少の配慮は必要かもしれません。値引きの交渉が目的だとすると、ストレートな表現は避けて、書き出しは『料金に関するお願い』とぼかすなど、工夫をしたほうがいいでしょう」

日本流の奥ゆかしさはトラブルのもと

携帯メールの感覚で、「親しみを込めて書くのがメール」だと勘違いしている若い人もいるようだが、あくまでビジネスであることを忘れてはいけない。

日本語の場合は、「お世話になっております」「よろしくお願いいたします」といった形式的なあいさつは、やはりあったほうがいいと、平野さんはアドバイスする。「必要に応じて、あいさつや追伸に気持ちを込めた一文を添える。そうすれば相手との距離も縮まります」。

読み手によって解釈が異なる「あいまいな表現」を避けて「具体的に書く」ことも英文流のポイントのひとつだ。

トラブルの元凶になりやすい期日の指定には、特に注意を払いたいもの。「できるだけ早く」「数日後に」ではなく、「7月24日の午前9時までに」と、ピンポイントで指定するのだ。

奥ゆかしさもビジネスメールには無用。「可能でしたら……」などと書いてしまうと、受け取った側に「無理だから、じゃあ検討するのはやめよう」と解釈され、話が前に進まないことも考えられる。

その点、英語では、ひとつひとつの単語の意味が狭いため、誤解を招きにくいと、関谷さんは言う。

「日本語の『わかりました』だと解釈に幅がありますが、『understand』の意味は厳密。『understand, but disagree(理解しましたが、同意はしません)』ということにもなるんです。英語に比べ、日本語にはあいまいな表現が多いので、誤解を生むような言い回しは意識して避けるべき。たとえば『少し難しいように思いますが……』と書いた場合、まったくダメなのか、多少無理をすれば可能なのか、はっきりしませんからね」

また「具体的に書く」という英文メールのテクニックは、相手をほめるときやお礼を言うときにも効力を発揮する。

「先日は、まことにありがとうございました」といったありきたりの言葉ではなく、「○○の案件では、迅速な対応をしていただき、プロジェクトチーム一同、感激しております」と、具体的に感謝する(ほめる)。そのほうが、相手の心にググッと響くのだ。「直接会話するときも欧米人は相手の長所を見つけて上手にほめるものですが、メールでも同じこと。短くても、具体的なほめ言葉のほうが相手には伝わると思います」(関谷英里子さん)

もうひとつ参考にしたいのが、記録としての役割を意識することだ。

「英語圏の人は、ビジネスメールは記録として残るものと考えている。トラブルが起こったときに証拠として使われることも念頭に置いて、記録として適切かどうかを確認する習慣がついているのです。日本では、まだそういう意識は薄いのではないでしょうか」(松崎久純さん)

記録としての役割を考えれば、書いたメールを読み返して内容を確認する作業には、細心の注意を払うべきであろう。

文字や文法の間違いはもちろん、文章のわかりやすさ、見た目のバランスなどを念入りにチェックする――日本語であれ、英語であれ、他人に見せる文章を書くときに必要なプロセスだが、どうも日本語のメールでは、この推敲という作業が軽視されているのではないかと、平野さんは指摘する。

「メールの場合、何度も読み返すものではないので、ひと目で内容が理解できる見やすさ、わかりやすさは必要だと思います。ていねいすぎる言い回しやムダな修飾語、誤解を招くような表現はどんどん削って、文章を短くする。分量としては、署名を含めてA4・1ページに収まるくらいでしょうか。3〜5行で1行空けて、一文は40文字以内。20〜30文字で改行を入れる、という構成です。相手が思わず返事をしたくなるような、後回しにしたらマズイなと思わせるようなメールが理想ですね」

推敲の際、ぜひとも気をつけたいのが、「事実と意見を混在させない」ことだと平野さんは付け加える。

たとえば、「今回の案件は、お客さまの予算が少ないため、厳しいと思います」という文章の場合、「お客さんの予算がないこと」が動かしがたい事実なのか、メールを書いた報告者個人の意見なのかがはっきりしない。報告者が勝手な思い込みで判断しているとも解釈できるため、トラブルの元になりかねない。これは、主語がなくても文章が成立する日本語独特の問題といえる。

事実は事実、意見は意見であることが、読み手にはっきり伝わるように書く――その点にも注意しながら、文章をブラッシュアップしてほしい。

Case Study[1]
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1.初めての場合は最初に名乗る

英語メールでは署名があれば名乗る必要はないが、日本語の場合、紹介者がいたとしても、初めてのコンタクトではきちんと名乗るべき。

2.英文流で、結論は最初に

英文の型どおり、最初の段落に結論を書いておくと読み飛ばされにくい。仰々しい挨拶や会社説明などは省き、代わりにURLを添えておこう。

3.直訳では失礼になることも

元の英文を直訳すると「ご存知の通り」となるが、日本語では「おかげさまで」など、少しへりくだった言い方にしたほうがよい。

4.結論を補足する数字とメリットを

英文では、結論や用件を補足する理由を2段落目、3段落目に簡潔に書く。相手のメリットになりそうな数字などを盛り込むとよい。

5.次のステップを提示して締める

最後に結論をもう一度繰り返し、相手が決断しやすいように次のステップを示しておく。これは日本語でも英語でも同じで、効果的な手法。

※すべて雑誌掲載当時


経営コンサルタント 松崎久純

1967年生まれ。米国南カリフォルニア大学卒、名古屋大学大学院修了。米国の通信機器販売会社などを経て、経済産業省所管・中部産業連盟経営コンサルタントを務め、慶應義塾大学でも教鞭を執る。

同時通訳者 関谷英里子

慶應義塾大学卒。商社などを経て、アル・ゴア元米国副大統領やダライ・ラマ14世など、世界の一流講演家の同時通訳者および翻訳者として活躍する。著書に『ビジネスパーソンの英単語帳』など。

ビジネスメール講師 平野友朗

1974年生まれ。筑波大学卒後、広告代理店を経て独立。アイ・コミュニケーション代表として、1万人規模のメルマガをプロデュース。著書に『ビジネスメール「こころ」の伝え方教えます』など。