ダルビッシュが投げるゲームは、まるでロックコンサートのようだ。いつも涼しい顔で鬼のようなボールを投げ込みバッターを捻じ伏せ、これ以上ない最高のドヤ顔でオーディエンスを熱狂させるショータイム。それは野球の試合というより、むしろエアロスミスのライブコンサートのようなエキサイトメントを提供してくれる、なんてのは言い過ぎだろうか。



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　2012.06.15 vs Houston Astros



　乱調だった前回のオークランド戦から中7日の休みを挟み、満を持して今季13回目の先発マウンド。同じテキサスに本拠を置くヒューストン・アストロズとのインターリーグ、通称"Lone Star Series"。立ち上がりこそやや不安定だったものの、中盤から調子を上げ徐々にアンストッパブルモードに。5回に味方が一挙5点を奪いゲームをひっくり返すと、以降8回まで打者9人から8K、まさに火の出るようなツーシームで圧倒。8回110球、キャリアハイの11Kでソールドアウトのオーディエンスの熱烈な"Yuuuuuu!!!!"コールに応えたと共に、このところD.ホランド、N.フェリス、A.オガンド、上原浩治と主力ピッチャーが続々とDL（故障者リスト）入りしている苦しいレンジャーズ投手陣を大きく助ける快投で、再びリーグトップタイとなる8勝目をマークした。


Darvish on his consistency 06/16/12



　さて、開幕直後のロケットダッシュの勢いこそなくなったレンジャーズであるが、チケットの売れ行きは相変わらず絶好調だ。今日のゲーム、レンジャーズボールパークには47,430人の大観衆が押し寄せ、レンジャーズは今シーズンのホームゲーム18試合目となるチケットの"Sold out"をマークした。過去の完売記録は、レンジャーズボールパークが開場した1994年に21試合ソールドアウトをマークしたのが最多なので、今季これを大幅に更新することは間違いない。


　レンジャーズの観客数大幅増の要因としては、何より2年連続AL制覇とチームとして黄金時代を築いていること、そしてタレント揃いのチームの中でも爆発的人気を誇るマフィア（J.ハミルトン）の存在も大きいが、言うまでもなくダルビッシュ効果は計り知れない。もっとも、N.ライアン球団社長やJ.ダニエルズGMはオフのダルビッシュ獲得に際し「（人気による営業効果は考えておらず単に）フィールド上でのパフォーマンスだけで判断し投資している」と語っていたが、実際のところ営業面でのダルビッシュ効果が大きくないわけがない。ダルビッシュの存在は日本におけるレンジャーズの認知度、ファン拡大は（この3ヶ月間でハミルトンを知った日本人が一体どれだけいることか）もちろんだが、現地テキサスでもレンジャーズ人気を押し上げている。

　もしダルビッシュが、新しさと話題性だけで注目を集める「客寄せパンダ」であったなら、そろそろメディアやファンの注目も薄れていく頃かと思うが（アメリカは日本以上に冷めるのが早い）そんな気配は全くない。ダルビッシュはここまでのパフォーマンスで既に「スタジアムに足を運んで観る価値のある選手」とファンに認知され、その実力で人気を掴み取っているのである。ダルビッシュは「今話題の人」を通り越して「観ていて楽しいエキサイティングなピッチャー」としての地位を確立している。


　ダルビッシュがファンにとってどういう存在であるかは、彼等がダルビッシュを形容するのに用いる言葉を眺めてみるとよくわかる。











　"beast","monster","nasty","killing"...　ダルビッシュのピッチングを形容するのにこういった言葉が使われているのをよく目にするが、これらは全て"impression"（印象）を表現する言葉だ。ダルビッシュのピッチングは（たとえ数字的にそこまで凄い成績を残していなくとも）インプレッシブでインパクトがあるのだ。たとえばバッターをエグるようなツーシーム、12時から6時にスッと消えて行くスローカーブ、凄まじいキレでバッターを滑稽にするスライダー。多少コントロールに問題があろうとも、投げるボールひとつひとつが見ていて楽しい。ダルビッシュを何度見てもワクワクできる理由はここにある。


　MLBには何人も素晴らしいピッチャーはいるが、毎回登板の度にワクワクしてしまう程のピッチャーというのはそう多くない。あくまでパーソナルで意見でしかないが、今これ程のワクワク感をファンに与えているピッチャーというのは、ダルビッシュとS.ストラスバーグ（ワシントン）くらいではないだろうか。もちろんJ.バーランダー（デトロイト）もJ.ウィーバー（LAエンジェルス）も観ていて楽しいピッチャーだが、彼等は既に実績と貫禄が有り過ぎるという点で、ワクワク感というより安心感を覚える。ダルビッシュやストラスバーグは、パフォーマンスの圧倒的なインパクトに加えてフレッシュさを持ち合わせている点が、エンターテイメント的に魅力なのだと思う。2人とも既にメジャートップクラスの完成度を誇りながらも「発展途上の選手」と認識されており、ファンは今後の更なる成長に胸躍らせながら応援することができるのだ。今やiPhoneさえあれば全試合をライブ観戦できスタッツから何まで全てが手に入るこの時代にスタジアムに足を運ぶ意味は、まさにこうした興奮をライブで味わうことにあるのではないだろうか。


　最後に、ダルビッシュの快投に便乗して、ダルビッシュの次回登板まで”Sushi"を半額で提供するというダラスのレストランをご紹介。