三菱総合研究所理事長
小宮山 宏
1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。2005年、東大総長に就任。「東京大学アクションプラン」を発表して改革を推進する。09年より現職。著書は『「課題先進国」日本』『東大のこと、教えます』など多数。

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分析で終わらない、情報に直当たりする、議論を恐れない。物事の表面に流されず独自の思考を生む秘訣を元東大総長が指南する。

情報爆発ともいえる現代、自分の頭で考えることの重要性がますます高まっている。

自分の頭で考えるにはそれなりの訓練が必要だが、大前提として押さえておくべきことがある。課題を指摘するだけの議論はやらない。ある課題と、それに対する自分なりの答えを必ずセットにして考え、答えが提案できない問題提起はしない、ということである。ここでいう課題とは、そこを突破できれば視界が開けるような、大きくて難しい問題のことだ。

こう言うと大きな顰蹙を買うかもしれないが、日本のインテリは答えのない議論が好きだ。本や論文の末尾は「今後もこの問題を考えていきたい」という問題提起で終わることが多い。困ったことである。

振り返ってみれば、明治時代は問題提起に終始していてもよかった。皆の共通目標である「欧米に追いつけ」という“坂の上の雲”が明確に存在しており、そんなときは「やりすぎじゃないか」「公害や人権侵害といった負の面にも目を向けよ」といった、インテリによる警告的な問題提起も必要だったのだろう。

いまは違う。日本はバブル崩壊後のここ20年、分厚い“雲”の中で、依然として出口を探している状態だ。アメリカは先のリーマンショックで、ITと金融による世界支配という野望が潰え、同じように苦悩している。順調にいくかに見えたEUも、今回のギリシャ危機によって通貨ユーロはもちろん、EUという構想自体が危機に瀕している。

中国だけは元気に見えるが、チベットなどの民族問題、一党独裁による弊害という政治問題、水不足や大気汚染といった環境問題と山ほどのマイナス要素を抱えている。そう、いま世界は皆さまざまな課題を抱えて、大変な状態にあるのだ。

人類がいま直面している課題は、大きく3つに分けられると考えている。

(1)「爆発する知識」:知識が莫大に増えたことによって、全体像を誰も把握できなくなっていること

(2)「有限の地球」:気候変動や資源の枯渇が憂慮されていること

(3)「高齢化する社会」:人類全体が年老いていくこと

これらの課題に対して、私はそれぞれ「知の構造化」「グリーン・イノベーション」「シルバー・イノベーション」という答えを提示してきた。

このうち、(2)「有限の地球」、(3)「高齢化する社会」の2つを、世界で最も切実な課題として抱えている国が日本なのである。私が日本を「課題先進国」と名付けたゆえんである。

日本には、まだどの国も解決したことのない課題が山積している。資源のない国土におけるエネルギー不足、都市化による環境汚染やヒートアイランド現象、高齢化と少子化……。世界に先駆けてこの問題に直面した日本は、「課題先進国」を脱して「課題解決先進国」になることこそが活路だと私はよく話している。

すると、「なぜそんなふうに考えるのか」「どうしてそれほどポジティブでいられるのか」と言われる。その答えは、ふだんから私が心がけていることにあるのだろう。まず、先に述べたとおり課題を解決策なく放っておかないこと、自分で生の情報に当たること、そして人と積極的に議論を交わすこと。この3点だ。

次回以降では、「有限の地球」に対する解決策を導くプロセスを例に、自分の頭を使って考え抜いた私見を述べたいと思う。

※すべて雑誌掲載当時