アニメ音楽をメインとしたコンテンツビジネスを展開

ビジネスパーソン研究FILE Vol.173

株式会社ポニーキャニオン 岡本真梨子さん

テレビアニメの楽曲制作に携わる岡本さん。プロデューサーに求められるものとは?


■自ら企画したアイデアで、数多くのドラマCDを発売

「会社の売り上げに貢献できる営業という仕事には興味がありましたが、名古屋に住むのも、一人暮らしをするのも初めて。辞令を受けたときは、ビックリしました」

入社後の配属先は、名古屋営業所での営業。名古屋から浜松エリアにあるレコードショップを回って、新譜の仕入れ数の交渉を行ったり、自社のCDやDVDの陳列を工夫したり、販促キャンペーンを提案したりして、販売数を伸ばすのが岡本さんの業務だ。先輩と一緒に担当店へのあいさつ回りを済ませた5月下旬からは、一人で店舗営業を行った。
「わずか1年足らずでしたが、レコードショップという販売の現場を知ったことは、その後の制作業務に役立っています。例えば目立たせようと大きな販促物やポスターを提案したくなりますが、実際は、大きすぎると店頭で使ってもらえなかったりします。売り場でのそうした状況を踏まえて、販促ツールなどの展開を考えられるようになりましたね」

2年目に担当したのは、映像の制作。テレビで放映されたキッズ向け番組のDVDやCD制作に携わった。先輩の下で制作の流れを学んだ半年後、今度は映像の音楽制作担当として、テレビアニメに使用する楽曲を作ることになった。アニメの中で流れる劇伴(げきばん:BGM)、オープニングやエンディングの曲などを、誰に作詞・作曲を依頼し、誰に歌ってもらうのかを考え、レコーディングに立ち会って作品の関連CDなどを制作するプロデューサー業務である。

こうしたアニメの音楽制作業務のかたわら、岡本さんは、売り上げアップのためにオリジナルのドラマCD企画を提案した。ドラマCDとは、語りだけでストーリーが展開していくCDのこと。岡本さんは、10代以上の声優ファンに向けて、月2枚・5カ月間シリーズで発売する『月刊男前図鑑』を発案したのだ。
「例えば『メガネ編』なら、メガネ設定のキャラクターが一人語りするというもの。オムニバスで4編ほどメガネの男子にまつわる話を作ります。『こんなものがあったらいいな』という自分の感覚を頼りに、外部制作会社の担当者さんと2人で、企画と構成を考えました。本当に売れるのかという不安はありましたが、何よりドキドキしたのは、社内で企画を説明したときのこと。『メガネの男性とお見合いするCDで…』と説明を始めると、途端に皆が『はぁっ! ? 』という表情になってしまって…(笑)」

企画が通って制作に取りかかったものの、ゼロからの制作に初めて取り組むということもあり、最初から順調には物事は進まなかった。
「右も左もわからない新人の私が、『こういうものを作りたい』という熱意だけで強引に進めるわけですから、外部会社の制作担当者はかなりやりづらかったと思います。それでも、10枚ぐらい発売したころには、売り上げという結果もついてきて、お互いの理解が深まり、信頼関係もできてきました。意見を戦わせることもしばしばで、しんどかった時期もありましたが、途中であきらめなくて本当に良かったです」

企画アイデアから、ドラマの構成、声優選び、そして一番重要な費用の管理まで、初めてすべてを自身で手がけたこのドラマCDは、ファンの心をつかんでコンスタントな売れ行きを見せ、同様のシリーズも含めて50枚近くをリリースするまでに。社内でも、かなり評判になった。
「従来からドラマCDというジャンル自体はありましたが、原作となるマンガや小説のないオリジナルのものだったので、最初はうまく企画を理解してもらえませんでした。けれど、実際に作品になると『面白い』と興味を示してくれて、『個人的に聞いてみたい』『営業先に紹介したい』など、声をかけてくれる人がすごく増えたんです。うれしかったですね」

メジャーレコード会社としては新しいジャンルのドラマCDを精力的に発売した岡本さんは、テレビ局から取材を受けたり、ゲーム会社からコラボの提案を頂いたり、大学生から『学園祭でイベントをやりたい』と企画を持ち込まれたりと、その反響の大きさに驚いた。
「他社、特にメジャーレコード会社が同類の作品を出すようになったのを見て、『マネされる存在になったんだな!』と、ちょっとした優越感でした(笑)」


■『けいおん!』のCDヒットを機に、ライブや映画音楽へと活躍の場を広げる

ドラマCDのシリーズを手がけながら、岡本さんは複数のテレビアニメの楽曲制作を並行して手がけ、プロデューサーとしての経験を重ねていった。
「少なくても2、3本、多いときは4、5本を同時並行で担当しているので、レコーディングなどスタジオ作業のダブルブッキングも多く、常にいっぱいいっぱいの状態で仕事をしていました。『作品のクオリティが落ちても、たくさん作ればいい』という方向に、自分が流されてしまいそうでしたね。ただ、そういった極限での仕事のお陰で、作品作りの中での自分の仕事がなんなのかが、ものすごくシンプルにわかるようになったと思います。それからは、現場、現場でプロデューサーに求められることを見極めて、自分の役割を果たすことを心がけるようになりました」

岡本さんが制作に携わったアニメ『けいおん!』の音楽関連商品は大ヒットとなり、ライブの運営やそのBlu-ray発売にかかわったほか、映画化を受けて映画音楽の制作現場に携わるなど作品を通して仕事の幅が大きく広がった。さらに、最近では声優アーティストのCDやBlu-rayの制作にも挑戦。撮影でグアムや軽井沢、発売記念イベントでは名古屋や大阪など出張も多い。
「作品ができ上がることが、仕事で一番楽しいです。さらに、その作品に反響があれば最高です。ライブやイベントに集まってくれる人たちの笑顔、わざわざ手紙を下さっての『楽しかった!』という声はもちろん、ネットでの批判も含めて、反響があることはすごくうれしいですね」

「プロデューサーに求められるものはアイデアだったり、納期の管理だったり、お金の計算だったり、いろいろとあります。その中でも作品制作のために集まる人たちが、不安なく力を発揮できる環境を整え、100パーセント以上の力を発揮してもらえるように気を配ることは本当に重要だと感じています。今、こうしてプロデューサーとして仕事ができているのは、会社の看板や肩書を背負っているからですが、会社の看板に関係なく『岡本さんと仕事をしたい』と信頼してもらえる存在になれるとうれしいです」