そして36歳になった現在、Sは中高時代からは考えられないぐらい、口を開けば「金がない、金がない」とぼやくようになった。

いやはや、すさまじい落差である。

現在の経済事情を訊くなどという下品なことはしたくないため、最近のSがどんな暮らしをしているのかはわからないが、おそらく相当大変なのだろう。

もともとの資産が多くなれば多くなるほど、ちょっとしたボタンのかけ違いで生じる負債も莫大になるものだ。

さらに現在のSの悩みは「金がないから、まだ結婚できない」ということらしい(ようやく「恋愛・結婚」をテーマにしたエッセーっぽくなってきた)。

なんでもSには結婚を前提に付き合っている30代の彼女がおり、年齢的なこともあって双方とも早く結婚したがっているのだが、結婚式にかかる資金やその後の結婚生活を考えると、まだまだ貯金が足りず、月の収入も心許ないという。

Sは意外に真面目で堅実な性格なのだろうか。

ところが、次のSの台詞を聞いて、またも価値観のギャップに驚かされた。

「だって結婚式って最低でも1億ぐらいはかかるやろ? そんな金、まだ無理やわー」。

かかんねえよ――っ!!開いた口が塞がらないとはこのことだ。

バブル崩壊以降、何かと「金がない」とぼやくようになったSだが、彼の場合、そもそもの金欠の基準が一般レベルと大きく違う。

夫婦生活に必要な月収の最低ランクも、数百万くらいに設定しているのではないか。

いずれにせよ、Sはまだしばらく結婚できないだろう。

人間の成長過程で培われた価値観は、そう簡単に変えられるものではない。

Sの奥さんになる女性を慮るばかりだ。