『吾輩は猫である』にはじまり、『ひげよさらば』『100万回生きたねこ』『きょうの猫村さん』など、猫が主人公となった物語には、名作が多々あります。独立独歩な生き様と気まぐれな風体な猫は、作家たちの制作意欲をかき立てるのでしょうか。

 伊坂幸太郎氏も、その1人なのかもしれません。先日発売された、書き下ろし作品としては10冊目となる長篇作品『夜の国のクーパー』では、猫のトムが語り役として登場します。

 「同じ大きさの半円が二つ並んでいるだろ。で、左側が鉄国、右側が僕たちの国だ。右側の半分の円の中に、小さな丸がたくさんあるんだけれど、これがそれぞれ町なんだ。そのうちの真ん中にあるのが、僕のいる町だ。町と町は離れているから、町の外に行く人間はいなくて」

 こう語るのは猫のトム。この国は戦争に負けたため、敵軍がどんどん押し寄せてきて占領されます。この国は遠い昔にも鉄国に負けたことがありますが、戦争に負けることはどういうことなのか、経験上理解できていません。もちろん、人間よりも寿命が短い猫のトムもわかっていません。

 猫と戦争と世界の秘密をテーマにした同作は、北朝鮮のミサイル問題がきっかけだと、伊坂氏は言います。「戦争状態になったら?」と想像すると、急に怖くなってしまったそうで、それなら「書いてしまえば落ち着くかな」と思い、作品をスタートさせたのです。

 そのままミサイル問題を描くと小説ではなくなるので、架空の国が戦争に負けるとこと、そして、最後の頼りにしている人が殺されてしまう絶望的な場面を書こうと、筆をとったのです。

 伊坂氏にとっては珍しいファンタジー作品。とはいえ、つい口元が緩んでしまうユニークな表現は健在です。「頑爺」や「複眼隊長」といった、変な名前の由来について触れたあとがきまで楽しみたい一冊です。




『夜の国のクーパー』
 著者:伊坂 幸太郎
 出版社:東京創元社
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