「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (11) 直販長期投資ファンド設立の夢が、”あと一歩”のところで瓦解…完膚なき敗北

写真拡大

投資信託委託業の認可申請書作成作業にようやく目途が付き、クレディセゾンの林野社長に、「間もなく投信会社としての認可が得られる見込みです」と報告しました。

数日後、私宛に林野社長から電話があり、「新たな投信事業の推進に際して、それを先導してもらう新しい社長を決めたから、その人に詳細を説明して理解をもらって事業を進めるように」との指示をいただきました。

その時、当該投資顧問会社には設立来私を重用してくださったセゾングループ生え抜きの社長がいて、私は同社の常務取締役として実質的にビジネスをリードする立場にありましたが、直販投信会社のスタートにあたってこれから取り組んで行く、いわゆるリテール(個人向け)金融ビジネスに精通したプロフェッショナルをこの会社の経営トップとして送り込む、という趣旨でした。

その新社長は大手都市銀行出身で、その後米国系大手銀行に移りさまざまな個人金融事業を運営されて来たベテラン、確かにリテール金融のプロにふさわしい立派な経歴を持って、当社に招かれたのでした。

私たちは期待を持ちながらも、不安が入り混じる中で新社長と対面しました。

日米の大銀行で金融ビジネスの経験を積み上げられて来られた自信に満ちて、かつ風格もあります。

私はこれからこの会社が取り組む、直販スタイルの投信ビジネスにおける既存金融業界のそれとの明確なコントラスト、さらには目指すべき目標と社会的意義まで、とにかく理解していただこうと必死に説明しました。

そして何より、この事業のコンセプトが決して儲けるためではなく、生活者の必要とする将来の資産形成を支える社会的ニーズに資する目的であることを、しっかりと納得していただきたかったのです。

ところが不安は杞憂ではありませんでした。

毎日張り詰めた問答が続きました。

最初は私たちに歩み寄ろう、という雰囲気がありましたが、だんだんと双方のベクトルの違いが顕わになって来るのが誰の目にも明らかになってきました。

そんな中で、金融庁から認可申請書を提出していい、との連絡が入りました。

いよいよ仮認可が受けられたのです。

申請書を提出したら、だいたい1カ月以内に正式な認可がおりるのです。

本来ならみんなで飛び上がって喜ぶべき朗報でしたが、新社長との合意が得られぬ状況下では逆に困惑が深まることになりました。

とりあえず当局には申請書提出を暫し待っていただくことをお願いしました。

やがて新社長に「話し合いはこれまでだ。

これから1週間、この事業の成算性について結論を考える」と言われ、ディスカッションの時間は終わりました。

1週間後、新社長からの最終結論が伝えられました。

「自分はこの会社にビジネスをやりにきた。

やるからには今すぐ利益が出るビジネスしか取り組まない。

従って、君たちの夢に付き合うつもりはない」。

そして認可申請書提出を取り下げてしまったのです。

さわかみ投信に続く直販長期投資ファンドとして、意気揚々と船出するところまであと一歩のところで、その準備にかかった2年間という時間が空費となり、私たちの夢はハッキリと瓦解しました。

新社長がこの会社に来てから2カ月足らずで、状況は一変してしまったのです。

新社長が今すぐ儲かるビジネスとして新たに取り組むことを宣言された事業は、証券業でした。

つまりこの会社を今度は証券会社に衣替えすると言うのです。

投信会社は取りやめて、これから証券業のライセンス取得に向けて作業を始めるように、と指示が下りました。

この新社長はリテール金融サービスの経験に長けていましたが、資産運用に関しては経験がなく、同時に関心もなかったのです。

そのため投資信託を運用側からのアプローチではなくて、販売側からの視点でとらえていたのでしょう。

その結果、「今世の中で一番売れている人気ファンドは何だ? グロソブか。

ならグロソブをセゾンカード会員に販売するための証券会社にする」となってしまったのです。

既存金融業界は販売者の都合で投資信託が語られるがゆえに、売れるファンド・売りやすいファンドが良いファンドとなってしまいます。

それはどんな運用が提供したいかという運用会社の持つ価値観とはかけ離れた、手数料最優先の思想に裏打ちされての商品選考となってしまうわけで、この新社長の発想は販売会社の論理そのものでした。

仕方ないことですが、投資信託ビジネスを主導してきた私と新社長との関係はめっきり折り合いが悪くなりました。

そして直販投信への夢を一緒に共有して私を支えて下さった応援者との関係が打ち切られることになりました。

”完膚なき敗北”を認めざるを得ませんでした。