医師、MRの心を動かすプロモーションを企画

ビジネスパーソン研究FILE Vol.171

グラクソ・スミスクライン株式会社 草野拓郎さん

MR経験を生かし、マーケティング担当として製品のプロモーション・講演会の企画を担う草野さん。


■MRとして売り上げを意識しつつ、医師との信頼関係づくりに尽力

「知識やスキルを身につけ、自分にしかできない仕事をしたい」との考えからMR(医薬情報担当者)を志望した草野さん。イギリスに本社を置き、呼吸器、感染症、ワクチン領域の治療薬に強みを持つグラクソ・スミスクライングループの日本法人である同社に入社し、最初に配属されたのは山陰営業所(島根県)。山間部の開業医を中心に担当を任され、試行錯誤しながら医師との関係を築いていった。
「課題に感じたのは、自分自身の知識不足でした。治療や投薬というものは医療行為の一つに過ぎず、先生方は検査や診断などさまざまな専門知識を駆使して日常診療をされているので、MRも医薬品の知識だけではなく、疾病や保険制度、医療システムなどについて理解しておかなければ先生からの信頼は得られません。当初はわからないことだらけでしたので、先輩や訪問先の先生に教えてもらったり、辞書を片手に英語の医学論文を読むなどして勉強を重ねました」

医師との信頼関係を築いていく上で心がけたのは、当たり前を疑い、ほかのMRとは異なる工夫をすること。
「他社のMRと同じことをしているようではダメだと思っていたので、例えば、『この先生は夕方にしか会えないよ』と言われても、一度は『本当かな?』と疑い、ほかの時間帯に会いに行ってみてダメだったら納得するようにしていました」

そのスタンスが結果につながったのが、2年目に企画した講演会。山間部の公民館を借りてうつ病治療に関するディスカッションを企画したところ、声をかけた10人の医師全員の参加を得られたのだ。
「通常、講演会は松江市内で行うため、市内から1時間以上かかる山間部の先生方はお誘いしても来てくださることがありませんでした。しかし、山間部にもうつ病の患者さんはいらっしゃいます。私たちMRが先生方に情報提供する以上に、先生同士で薬剤の情報や治療法をお話しいただいた方が納得感を得られるもの。当社のうつ病治療薬について理解を深めていただく場をなんとか作れないかと思い、企画しました。先生方からの反応もよく、信頼につながったと思います」

また、失敗から学んだことも。2年目に担当エリアが出雲市に変わった際、大口顧客である医師が自社製品をあまり利用していないと誤認し、アプローチしてしまったのだ。
「その先生の門前薬局(※)とは別の同名の薬局の売り上げデータから判断してしまい、『こんなに処方しているのに、何を言ってるんだ!』とお叱りを受けたのです。その後、何度も訪問してお詫びし、時間はかかりましたが関係を回復することができました。失敗して逃げればそこで終わり。でも週に1回でも2週間に1回でも、自分のペースでいいので逃げずに訪問すれば、チャンスがめぐってくることを学んだ経験になりました」

(※)病院の付近にあり、主としてその病院の処方箋のみを対象とする調剤薬局。

その後、3年目に広島営業所に異動となり、大学病院を担当。そして、5年目には大きな達成感を得る出来事があった。ぜんそくに効く新しい治療薬の発売に伴い、医師向けの発売記念講演会を企画し、成功を収めたのだ。新薬は、同社が自信を持って市場に投入する製品。草野さんは多くの医師に採用してもらいたいという思いで講演内容の企画から演者の選定、集客までを主導し、営業所のメンバー全員の協力を得て、200席の会場に250人が来場することとなった。
「東京の大学病院の先生に、ぜんそく治療の現状をふまえ、今回発売する新薬の位置づけや臨床データの解説を行っていただくという内容に決め、演者の先生との打ち合わせも入念に行いました。その結果、参加してくださった先生からは『使い方やポジショニングが明確になった』との感想を頂くことができ、売り上げも順調に推移。『採用に貢献できたかな』と感じました。また、うれしかったのは、私が担当していたある先生の患者さんの症状が劇的に改善したこと。重症ぜんそくの妊婦さんで、先生から相談を受けて提供した安全性などの情報をふまえ、最終的に先生が処方を決められたのですが、無事に出産を終えることができたそうです」


■課題感から営業所内で自主的に研修を企画。認められて本社の研修部門へ

一方で、6年目を迎えるころから、草野さんはMRを取り巻く環境の変化や課題を感じ、研修部門への異動を考えるようになっていた。その希望がかなったのが7年目。本社の能力開発部に異動となり、呼吸器事業本部のMR約550人を対象とした研修の立案・実施を担当することとなった。
「インターネットの発達により、調べればわかる情報ではなく、直接会って提供する価値のある情報や、情報と情報を組み合わせた情報など、付加価値の高い情報がMRには期待されるようになっていました。また、医薬品の採用・不採用の判断材料として科学的根拠の比重も高まっていたのです。このような変化に対応するには、より一層科学的・学術的知識をつけるとともに、自社製品の周辺知識、例えば医療全体を取り巻く課題や担当製品が必要となる疾患以外の知識も深めていかなければなりません。そこで、営業所内で同僚を集めて自主的に研修を始めたのですが、それを見ていた支店長が推薦してくださり、異動が実現しました」

異動後、草野さんは通常の研修の中に自社製品以外の知識を得る時間を設けることを提案。参加者の知識の幅を広げる研修を実現した。
「医療を取り巻く課題やレントゲンの読み方、結核などぜんそくやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)以外の呼吸器疾患に関連した情報などを提供したのですが、参加者から好評を得ることができました。MR時代の自分と同じように、当社の製品が対象とするぜんそくやCOPDにはすごく詳しいのに、それ以外の呼吸器疾患についての知識が少ないことに皆悩んでいたんですね。そのギャップを少しずつ埋めることができ、私がここに来た意味があったかな、と感じました」

そして2012年4月、入社10年目を迎えた草野さんは新たな仕事に取り組むことに。小児ぜんそく関連製品のマーケティング担当として、担当製品の全社的なマーケティングプランの策定やプロモーション・講演会の企画を担う。これまでの経験を生かし、MRや医師の心を動かすマーケティングプランを作っていきたいと考えている。
「MRとして先生方に接したり、研修で多くのMRと出会ってきましたが、単に『売り上げを上げるためにやりなさい』と会社から言われるよりも、先生や患者さんのためになると思える仕事の方がMRのモチベーションは上がるように思います。だからこそ、MRが『よし、やってやろう』と、先生方が『患者さんのために使ってみよう』と思えるプロモーションやメッセージの出し方を考えていきたいですね。今は異動したばかりなので、まずは担当業務を一人前にやれるようになるとともに、世界各国の拠点・法人と協力して行う仕事をスムーズに進められるようにすることが目標です。そして、『草野に任せておけば大丈夫』と言われるような一人前のマーケッターになり、会社に貢献できればと思います」