「しばらく現代の若者を描いた作品を書いていない」

 これは、村上龍氏のエッセイ集『櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている。』のなかの一文です。村上氏が若者を描いた作品は、厳密に言うと、社会的引きこもりを描いた『共生虫』(2000年)や、援助交際をテーマにした『ラブ&ポップ』(1996年)あたりが最後となっています。

 なぜ、村上氏は若者をテーマにしなくなったのでしょうか。同書のなかで村上氏は、自身の年齢が若者とはほど遠い年齢になってしまったことが大きな理由としていますが、「若者の生態」に象徴的・普遍的なモチーフがないため、敬遠している部分があるともいいます。

 また、どちらかというと、「若い男性」を主人公にして小説を書くことの方が難しいそうです。それについては、宮崎駿氏も同じような意見を持っており、『風の谷のナウシカ』以来、ほとんどの作品で主人公が少女となっています。そのことについて宮崎氏は、「男の子を主人公にしづらい、なぜなら現代社会において男が判断し決定する重要事項が減っているから」といったニュアンスのことを、対談時に村上氏に伝えました。つまり、女性は出産をするかしないかといった普遍的な決定事項があり、学校卒業後も社会とどう関わっていくか、判断が必要とされます。「学校卒業後は就職」といった男性よりも、ずっと選択肢が多いのです。

 村上氏は、多くの若い男性がアイドルに執着する姿にも違和感があるといいます。仲間と共にアイドルを追いかけることで一定の安心感が得られる反面、現状を批判したり否定したりするエネルギーが削がれてしまっているのです。アイドルが若い男性から「怒り」といった感情を奪っているといえるのです。

 しかし、正規社員として就職することも難しい今、抵抗や反抗などを行なっている余裕がないのも正直なところ。そういった時代の違いからくる事情については、村上氏は認めていますし、否定はしていません。ただ、小説の主人公にはなり得ない、そういうことだけなのです。



『櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている。』
 著者:村上 龍
 出版社:ベストセラーズ
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