■最高のスタートを切った今シーズンだが

19日に西野朗氏の新監督就任が発表され、神戸への注目度が再び高まっている。大型補強を敢行して大きな期待を背負いながらも思うように結果を出せてこなかったクラブが、日本人でトップクラスの実績を持つ指導者を迎え入れ、「AFCチャンピオンズリーグ出場権獲得」という目標達成に向けてリスタートした。その中で今後の神戸の躍進のキーマンとして期待したいのがチームの絶対的エースである大久保嘉人だ。チームのためにハードワークし、自己犠牲を払いながらチーム成長を望んできた男が、相性抜群と言える指揮官のもとでさらなるスケールアップをしようとしている。

大久保にとっての今季は、アウェイでG大阪と戦った開幕戦で2ゴールを挙げるという最高のスタートだった。毎年オフに体重が増加し、まず体を絞るところから始まっていた例年とは違い、「体重が増えんように気をつけた」という今季は始動前の自主トレからコンディションをつくって臨んだ。チーム始動の時点で頬がこけている姿は、今季に懸ける思いの強さが伝わってくるものだった。そしてそれがキレのあるプレーにつながった。序盤の大久保は、鋭い動きと高いテクニックを見せつけるパフォーマンスを披露した。しかし、それがチームと自身の結果にはなかなかつながらなかった。開幕連勝を飾った後、チームは苦み、自身も第7節まで先発出場を続けながらも3点目を決めることができず、その後負傷離脱。FWで勝負することになり、「得点王を狙いたいね」と意気込みながらも、ボールのつなげられないチーム状態を考慮して左MF起用されるなどイメージ通りのプレーをする環境はなかなか整わなかった。

■絶大な存在感を持つが故に

この男の神戸での存在感は常に別格だ。国見高時代から長い付き合いの徳重健太は「日本で一番すごい選手だと思う」と話し、今季加入した橋本英郎は「速攻とポゼッションのどちらにでもすぐ対応できるのは嘉人ぐらい」と評価する。そんな彼が大人になり、チーム全体が成長するためにどうすべきかを考え、動くようになったことで、すべての役割を自分でこなさなければと献身的すぎるプレーが目につくようになった。キープができて、突破ができて、パスも出せる。チームの中で際立つ能力の高さが、すべての穴を埋めるようにと使われるようになっていった。試合後のミックスゾーンでは、うまくいかないチームに対する苛立ちを口にすると同時に、自分自身が何とかしていなかければと多くを背負いこんでしまっている様子がうかがえる状況だった。

今回の西野新監督就任は、そんな状況が少し変わるきっかけになりそうだ。大久保は西野監督率いるG大阪にはめっぽう強く、神戸に加入した2007年以来のG大阪戦では5得点を決めており、C大阪時代にも万博の地で2ゴールを挙げる“西野キラー”ぶりを見せてきた。その結果もあってか、西野監督は大久保のことを以前から非常に高く評価してきた。事あるごとに「日本屈指のストライカー」と話し、2010年の対戦前に発した「彼は常にゴールを狙っている選手。ガンバの良いところと悪いところをわかった上で、どういうプレーが点につながるかを考えている。90分のほとんどで良くないなと思いながらも、ツボみたいなのは持っている。いつも得点を探りながらやっている。生粋のストライカーというか、そういうスタイルがあるよね」というコメントからは、いかに西野監督がFWとしての大久保を恐れ、好んでいたかがわかる。

■自身を高く評価する指揮官の就任

その指揮官が神戸にやってきたということは、大久保にとって朗報だ。20日にクラブハウスを訪れた際、大久保の起用法について問われた西野監督は、「彼には得点することへの意識付けを強くさせていきたい」と求める役割を明確にした。「いろいろできちゃうからやるということではなくて、得点力というスペシャルなところにこだわってやってもらいたい」。多くの人がもやもやと感じていたことをはっきりと口にした。初日に今季開幕前、MFではなくFWとしてシーズンに臨めることを喜びながらもチーム事情に合わせたプレーを余儀なくされていた大久保は、これを聞いて素直に喜んだ。