家電業界を震撼させたビックカメラによるコジマ電器の買収。しかし、ヤマダ電機の“一人勝ち”状態の家電業界では、こうした再編の動きはさらに広まっていく可能性が高い。

 激安家電ハンターの、じつはた☆くんだ氏によると、「今の安売り主流の販売形態では、売り上げが1兆円程度あって、やっと500億円程度の利益が出る計算。これが安定経営のボーダーライン」という。しかし、そのボーダーラインを超えるのは、2兆円弱の売り上げを誇るヤマダのみ。あとは、ビックとコジマが合併することでようやく1兆円を超える計算だ。

 そのため、さらなる業界再編は必至。市場規模の縮小傾向を考えれば、1兆円前後というラインをクリアできるのは残り1、2陣営に限られてくる。可能性があるのは、売り上げ7000億円台で横並びのエディオン、ケーズ、ヨドバシあたりか。某大手証券会社のA営業部長が次のように分析する。

「ヨドバシは例外的に単独でも生き残りが可能です。上位では唯一の非上場で、量販店というより“家電専門店”というカラーがはっきりしていますからね」

 となると、エディオン・ケーズ連合が本命か?

「ほかに動く可能性があるのは、コジマと売り上げ4000億円前後で6位争いを繰り広げていたジョーシン(上新電機)でしょうか。“阪神ファン囲い込み”という切り札を持つ関西資本として奮闘していますが、やはりこの規模では業界最安価格を提示するのは難しい。価格にうるさい関西人の心を、いつまでつかみ続けられるか」(A、営業部長)

 つまり、ヨドバシ以外の上位チェーンはどこがどう手を組んでもおかしくない。そして、どこも「ヤマダに吸収されるのだけはカンベン」という思いもあるという。前出のじつはた氏が明かす。

「コジマが業界首位を走っていた頃、ヤマダはなりふり構わぬ敵対的買収と、ライバル店直近への大型対抗店の出店を繰り返しました。それまで『互いのエリアを侵さぬ共存共栄』が常識だった業界に、血で血を洗う抗争が持ち込まれたのです。『ヤマダに買収されるくらいなら、いっそ外資と……』と考える陣営がいてもおかしくありません」

 じつはた氏によると、現在、日本進出が有力視されるのは、アメリカのベストバイや中国資本の蘇寧(スニン)電器、国美(ゴーメイ)電器といった巨大チェーン。国内での合併が上手くいかなければ、こうした外資系チェーンと手を組む可能性は大いにあるという。

 前出のA営業部長も、「今の状況は、10年前のスーパーマーケットの再編期に似ています。日本参入を狙っていたアメリカのウォルマートが西友と提携を始めた頃ですね。参入当初は『日本の市場にアメリカ式は通用しない』と批判されたウォルマートですが、今の西友の大躍進を見れば、結局はスケールメリットの勝利だった」と、外資系チェーンの進出を現実視する。

 そんななか、ヤマダは今年3月、南京に中国第3号店を出店。日本式の接客と売り場構成、ポイントカードの導入など従来の中国になかったサービスは大人気を博しているが、もちろん中国勢もただ手をこまねいて見ているわけではない。

「中国でのヤマダ人気を目の当たりにして、中国勢は早速日本市場を調査しました。その結果、彼らは『急激な拡大路線で新規雇用の多いヤマダのスタッフサービスは、ほかの日本の量販店に比べて低レベル』と判断した。つまり、売り上げは低くてもサービスの優秀な日本企業を買収してノウハウを得れば、中国でも日本でもヤマダを抑えられるという感触を持っているんです」(A営業部長)

 独走状態のヤマダの牙城を崩すのは、日中の合併企業かもしれない。いずれにせよ、日本の家電業界に残された時間は少ない。

(取材/近兼拓史)

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