朴正熙(パクチョンヒ)……暗殺。全斗煥(チョンドゥファン)・盧泰愚(ノテウ)……逮捕。盧武鉉(ノムヒョン)……自殺。政権末期や退陣後、かくも不幸な末路を辿るのが韓国の大統領だ。李明博(イミョンバク)にも側近の金銭スキャンダルが噴出し始めている。まさに命を懸けた戦い。過熱する韓国大統領選の現在を、産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏が報告する。

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 韓国での権力闘争が熾烈化している。国会議員選挙(総選挙)と大統領選が同じ年に重なるのは20年ぶりだが、大統領選まであと半年。権力は保守に留まるのか、あるいは左派が奪還するのか? それとも地域的に嶺南(慶尚道)が権力を維持するのか、あるいは湖南(全羅道)が再度、手にするのか? いやもう1つ、40代以下が権力に接近するのか、それとも50代以上が権力の行方を左右するのか?

 前哨戦の総選挙(4月11日)では、保守が崖っぷちで辛うじて踏みとどまった。議席数では保守のセヌリ党が過半数を維持したものの、得票率では左派の民主党・進歩党が逆にわずかに上回っている。現状は左右が五分と五分。総選挙の結果では大統領選の行方はまったく読めない。

 現在の李明博政権は10年ぶりの保守による政権奪還だった。国民は“経済”という新しい時代精神から彼を選んだが、その結果には満足していないようだ。年末の“次”をめぐる権力闘争を占うためには李明博政権の総括が必要だ。

 まず李政権は地域的に嶺南派であり、財閥企業経営者出身のイメージもあって“既得権勢力”と見られてきた。

 韓国では「権力とは人事が万事」という。李政権の権力つまり人脈源は嶺南・高麗大・教会といわれた。世代イメージは当然、50代以上の既成世代。そして北朝鮮問題では南北首脳会談開催に恋々とせず、非妥協的だった。

 しかし“次”に対し国民は李政権との差別化を期待する。すでに側近の汚職が表面化しているが、今回も新権力は旧権力を血祭りにあげる?

 韓国政治をめぐっては「陰の主役はいつも北」だ。北は総選挙と同様、大統領選でも民主党・進歩党提携による親北・左翼政権再現に全力を挙げる。金正恩体制の安定にはぜひそれが欲しい。

 そのためには、既成のモノを破壊し「新しい何か」をもたらす新世代のシンボル「安哲秀カード」を取り込まなければならない。

 安哲秀は“韓国のビル・ゲイツ”と呼ばれ政治的には中道だが、過剰な現状否定論は左翼に利用されやすい。韓国の権力闘争にはこれまでにもまして“北の影”が影響する。朴槿恵をはじめ保守勢力は厳しい二正面作戦を迫られる。

※SAPIO2012年6月6日号