スタイリスト・北澤氏が語る仕事と読書の関係
本の魅力は「正に文字しか情報がないところ」



 スタイリストだけでなく、クリエイティブディレクターとしてCMや広告で"役者"のアイデンティティを表現するお仕事をしていらっしゃる北澤さん。表現方法として北澤さんのフィールドである衣装、映像と「活字」との魅力の違いについてお聞きしました。

 「仕事柄、映像や衣装といった目に見えるもので何かを表現することが多いですが、活字の魅力は正にその映像がないことだと思います。ディテールがはっきりした本が好きですけれど、俳句だったり、詩集も嫌いじゃない。それはきっと自分も本を読んでいる時は頭の中で映像を再生しながら読んでいて、その想像をするのが楽しいからなんだと思います。本の魅力ってそこですよね。それから、僕にとってディテールと共に重要なのはリズムなんです。文章自体のリズム感。筒井康隆さんの『俗物図鑑』は後半に行くにしたがってどんどんリズムのテンポが上がっていきますよね。ああいうのは読んでいて気持ちがいいですね」(北澤さん)

 作品のアイデアに、日頃読んでいる本が影響することもあるのでしょうか?

 「印象的な一文から仕事にインスピレーションを受けることはあります。何かに書き留めているわけでもなく、ずっと覚えているわけでもないんですが、ふとした時に思い出してそれが作品に自然と反映されているものもありました。意外な言葉の組み合わせだったり、情景に新たなワードが組み込まれることでまったく違うニュアンスになったり、面白い表現はとても参考になります」

 スタイリングのお仕事をする際、担当する方のことを知っておくためにその人の著書を手に取ることもあるとか。

 「以前、ノーベル賞をとったばかりの利根川進博士のスタイリングを担当させていただくことがあって、その時に利根川博士の『精神と物質』を読みました。これは立花隆さんとの対談本なんですけど、博士にお会いした時に、『今、一番興味があることは何ですか』とお聞きしたら、『魂ですね』と答えられたんです。『精神と物質』の中ではその魂についても言及されていました。博士によれば、魂を原子分子レベルで解明できれば人間は作れるとおっしゃって興味深いと思ったんです。博士に『人間を作るって事が倫理的に問題だっていう団体とか出てきそうで大変ですね』とお聞きしたら、『どうして?ただ僕は知りたいだけなのに』って(笑)。研究者の好奇心の純度に感動しましたね」

 知りたいことがあると、本を手に取ることが多いという北澤さん。何か一つのことに興味を覚えると、それについての書籍をどんどん読んでいくのだそうです。

 「利根川博士の脳についての本を読んだ時も、脳って不思議だなと思って"海馬"について書かれた本など、いろんなものを読みました。難しかったですけれど、考えるという作業が一体どこで行われているのかなどは面白い発見でしたね」

 そんな北澤さんですが、仕事をする上で大切にしていることが村上龍の『五分後の世界』の一節にも出てきた次の言葉だそうです。

 「主人公がタイムスリップした日本で手に取った歴史の教科書に『敵にも分かるやりかたで』という一文があるのですが、この言葉が好きで。仕事をする上で、コミュニケーションをとったり作品を作ったりする時に、伝えたいことを自分が理解していても、相手にもちゃんと分かってもらえるものでないと意味がないんですよね。相手にも理解できるやり方でいろいろな方法を考えることは、仕事でもとても大事にしていることです」

 映像や衣装など様々な表現方法でアイデアを具現化していく北澤さん。そんな北澤さんにとって読書というものは、ひらめきと仕事のスタイルのベースになっているものなのかもしれません。

《プロフィール》
北澤"momo"寿志(きたざわ・もも・ひさし)
1965年、群馬県生まれ。兼田サカエ氏に師事した後、1990年にスタイリストとして活動を開始。広告、ミュージックビデオ、CDジャケット、雑誌等で様々なアーティストのスタイリングを手掛け、映像を中心としたビジュアル全体のトータルプロデュース、ディレクションも行っている。



『なぜ今日もシウマイ弁当を買ってしまうのか?』
 著者:ラズウェル 細木
 出版社:集英社
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