大事なのは、「何を思うか、どう動くか、誰と出会うか」

仕事とは? Vol.73

お笑い芸人・DJ ふかわりょう

大学在学中にデビューしたふかわ氏。当時を「自分の足で立っている気がしなかった」と言う理由は?


■デビュー当時は、自分の足で立っている気がしなかった

将来の道を考え始めたのは高校生になったころ。生涯向き合える仕事がしたくて、子どものころから好きだったお笑いの道に進もうと決めました。せっせとネタを作り続け、お笑いの世界の門を叩いたのが20歳の時。すぐにデビューが決まり、トントン拍子でした。ところが、いざバラエティ番組に出られるようになると、何もできない自分に気づき、打ちのめされました。幸か不幸か僕には下積み時代がなく、経験の引き出しが足りなかったんです。

デビューのきっかけになったひと言ネタが当時は珍しかったこともあって「シュールの貴公子」ともてはやされ、仕事はありましたが、このままでは先はないと思っていました。自分の足で立っている気がしなかったからです。テレビのお笑いの世界で自分にできることを何とかして見つけたいと思っていた時、ある番組で東野幸治さんがお笑いの流れの中で僕の頭をはたき、お客さんがドッとウケたんです。僕がまだ若手芸人として周囲から持ち上げられていたにもかかわらずですよ(笑)。その時に、身をもって学びました。バラエティ番組にはいろいろな役回りがあって、必ずしも自分が前に出て笑いを取るのではなく、自分の役割を果たすことで全体の笑いを作り出していくものなんだなと。

その後、20代は求められることに応えるだけで必死でした。ほかの芸人さんとの関係性で笑いを取る「リアクション芸」の仕事が増え、いろいろな芸人さんと出会えたのはとても勉強になりました。一方で、振り返ってみると、当時の僕には「お笑い芸人のキャリアとは、こうあるべき」という思い込みがあって、そこから外れないように生きていました。だから、与えられた仕事に違和感を抱いても自分の気持ちにふたをしていたところもあったと思います。

でも、30歳になったころ、ふと「お笑い芸人」とかテレビなどの特定の媒体の中で物事を考えるのではなく、自分が何をやりたいかをもっと大事にしてみようと思ったんですね。というのも僕はそれまで芸人たるもの四六時中お笑いのことだけを考えるべきだと思っていたし、自分から休みを取ることもほとんどありませんでした。それでは視野が狭くなってしまう。まずは仕事とは関係なく本当に好きなことをやってみようと始めたことのひとつがクラブのDJでした。

DJイベントを始めて10年以上がたちますが、最初は「お笑い芸人なのに、なんでDJ?」と白い目で見られることも多かったですよ。DJブースにお酒やライターが飛んできたこともありました。お客さんがほとんどいない日も…。それでも、僕には関係ありませんでした。好きだから、やり続けた。そのうちに「ふかわは『バカ』がつくくらい音楽好きなんだね」と理解してくれる方がチラホラと現れて、ROCKETMANという名でCDを出したり、仕事でも音楽関係のテレビやラジオに呼んでもらえるようになっていったんです。


■一番いけないのは、物事をやる前に決めつけてしまうこと

音楽のほかに30歳から続けている好きなことが、文章を書くことと、外国への旅です。実は僕はほとんど本を読まなくて、文章を書くことへも苦手意識があったんですよ。でも、ブログを始めて自分の感じていることを素直に書くようにしていたら、「書きたい」という気持ちがどんどん強くなって。エッセイや小説のお仕事も頂くようになり、ここ数年通い続けているアイスランドへの旅行記も出版しました。お笑いの世界に入った当時は想像もしていなかったことです。

仕事というのは、必要とされることに応えるのが基本だと思います。でも、必要とされることと自分のやりたいことが一致するとは限りません。ただ、自分が何を本当にやりたいのかを自問自答し続けることはとても大切だと思います。そうしないと、社会人は忙しいので、与えられた仕事を右から左に流すだけで毎日が終わってしまいますから。

最近つくづく感じるのは、仕事を含め人生の鍵を握るのは「何を思うか、どう動くか、誰と出会うか」なんだなって。「誰と出会うか」は自分ではどうにもできないと考える人もいるかもしれないけれど、そんなことはありません。例えば最近、僕は以前から尊敬していたミュージシャンとお話しすることができたのですが、これはクラシック音楽のラジオ番組で僕と一緒に司会を務めるチェリストの遠藤真理さんのご紹介があったから。僕がクラシック音楽の番組をやっていなければその出会いはなかったはずです。さらに言えば、僕が音楽というやりたいことを大事にしようと決め、行動したからこそ、巡り巡ってその番組とも出合えた。だから、出会いというのは自分で生み出していくものなのだと思いますね。

ただ、やみくもに自分の意志を貫けばいいということではありません。そもそも、自分の意志って、最初はよくわからないものだと思うんですよ。いろいろなことを経験してみてようやく「やりたいこと」がわかる。時間が必要なんです。一番いけないのは、物事をやる前に「きっとこうだろう」と決めつけてしまうこと。まずはやってみて、全身で感じないと、何も生まれないです。

それから、「これは仕事」「これは仕事じゃない」という境界線は作らない方が、可能性が広がると思います。時代は変化していくので、「商社はこんな仕事」「銀行はこんな仕事」といった思い込みにとらわれていては、ビジネスを生み出し続けることはできないと思います。お笑い芸人だって、今やひと言で「こんな仕事」と定義できないですしね。これからの時代は、職種や肩書、立場にこだわらず、社会の中で自分に何ができるかが問われる気がします。それはこれから社会に出る方たちだけでなく、僕も同じ。皆さんに負けない仕事をしていきたいと思います。