円城塔氏の芥川賞受賞後第一作となる短編集が刊行されました。受賞前に文芸誌などに書かれた短編を集めた同作。本の帯には、「どちらかというとわかりやすい最新作品集」という一文が添えられています。

 受賞作『道化師の蝶』は、「難しい作品」(黒井千次氏)、「もっと読者に安売りを」(山田詠美氏)、「一人よがりの作品」(石原慎太郎氏)といった芥川賞選考委員の愛ある辛口選評にさらされました。そんな圧力に屈して、とうとう読者に読みやすい小説に転向したのか! と思いきや、一読してみれば、全く杞憂であることがわかります。円城氏の真骨頂である禅問答のような、哲学のような、ブラックユーモアが漂う世界は健在。

 表題作『バナナ剥きには最適な日々』の主人公は、宇宙空間を漂う無人探査機。人の脳のような機能を持たされた彼には、宇宙人を判定したら地球に報告するという役目があるのですが、100年来、特筆すべきことは起こっていないらしいのです。これから果てしなく続く未来に、宇宙人と遭遇できるのかどうか。彼はやりきれない思いのまま、気の遠くなるような長い時間、友人を想像したり、バナナ星人を思い描いたりして過ごしています。

 「何でそこにバナナが出てくるの」と言ってしまっては身もふたもありません。星間探査機の頭の中の話ですから。そもそも探査機に人間のような想像力や思考力があるのか、という疑問がわく人もいるかもしれませんが、未知の生物を宇宙人だと判定するためにそれらの能力は備わっているのです。けれど、彼の内部には、想像力は余計な思考だと見なされ、消去される制御装置が搭載されている、という矛盾もはらんでいるのですが。

 この表題作をはじめそれぞれの短編には、通常スルーしてしまいがちな矛盾をうだうだと自問自答する風変わりな人々が描かれています。そのユニークさは、今までに考えたこともないほど、というほかありません。どの短編を読んでも、常識に捉われている私たちの想像力を刺激してくれることは間違いないでしょう。

 円城氏は「普段の生活では考えてもみないことが考えられるようになる、というのも小説の力だと思います。少なくとも、僕にとっては小説を読んでいて一番快感なのはそこなんです」と、受賞者インタビューで語っています。

 作者がいう「快感」をあなたも味わってみませんか?



『バナナ剥きには最適の日々』
 著者:円城 塔
 出版社:早川書房
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