ニュースの教室:15限目「高速ツアーバス事故」 ―誇りの安さ―

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4月28日午後10時すぎ、金沢駅を出発したバスは、
その7時間40分後、関越道の防音壁に正面衝突した。
7人が死亡、3人が重体、36人が重軽傷を負った。
あれから一週間。私たちにわかってきたことは何だろうか。

まず事故を起こした河野容疑者について、わかってきたこと。

1.河野容疑者は居眠り運転であったと自供をした。
  乗客から「運転手が休憩中に突っ伏して寝ていた」、
  「(バスが)左右に揺れていて事故が起きるのではないか、
  と思っていたら、そうなった」との証言もあった。
2.河野容疑者は自分のバスを所有しており、
  普段は中国人観光客を成田空港まで送迎し、
  大阪などの遠距離運行も行っていた。
  (河野容疑者は中国出身で中国語が得意だった)
3.しかしバスの「所有者」は河野容疑者だったが、
  実際に走らせる「使用者」は陸援隊の名義になっていた。
  これは道路運送法に違反する「無許可営業」の疑いがある。
4.河野容疑者は、陸援隊の「日雇い」の立場だった。

河野容疑者を雇った運送会社「陸援隊」について、わかってきたこと。

1.河野容疑者に運送事業の名義を貸し、
  9ヶ月前から日雇いとして運転の仕事を単発で出していた。
2.同社に国土交通省関東運輸局の特別監査が入り、
  道路運送法上の違反を36項目指摘された。
  担当者から「監査で法令違反が見つかることは珍しくない。
  しかしあまりに多すぎる。極めてずさん」との感想が洩れた。
3.労務管理や安全指導、乗務指示責任を持つ「運行管理者」と、
  車両の定期点検整備を管理する「整備管理者」を、
  「陸援隊」の針生社長が兼務していた。
  「19台の車両を保有する経営者が2つを兼任するのは異例」
  だとの別の担当者の談話も入ってきた。

バスツアーは大阪のツアー会社が企画をした(取り分1万円)。
その運行を貸し切りバス会社が請けた(取り分1万円)。
実際の運行は「陸援隊」に丸投げされた(利益不明)。
「陸援隊」は日雇い運転手の河野容疑者に仕事を回した。
河野容疑者はこの仕事を1万円で請け負った。

陸援隊の取り分は13万円程度で、利益は不明だ。
しかしこのツアーの運賃が3,500円だったことから、
おおよそのことはわかる。

同じ区間の金沢−舞浜間の運賃を調べてみると、
・連絡バス、飛行機、JRなどを乗り継ぐと、24,110円(約4時間)
・特急、新幹線、JRなどを乗り継ぐと、15,570円(約5時間)
と計算される。
1人当たり1万2千円から2万円の差額は、
安全と責任の放棄の値だと見ることができる。

ツアー会社も、貸し切りバス会社も、陸援隊も、
そして河野容疑者にとっても、全員の実入りは驚くほど少ない。
誰にとっても儲けが薄い、恵まれない事業であり、仕事だ。
誰にも誇りをもたらさない、恵まれない事業であり、仕事だ。

今回の事故の大きさや悲惨さに驚き、
次々に明るみに出る違反やズサンに呆れかえりながら、
しかし多くの人は、本当には驚いていないのではないか。
夜間の長距離バスの客足は、依然として落ちていないのだ。

私たちについて、わかってきたこと。

ツアー会社、バス会社、運転手が、
乗客の命を、安く扱うようになってきた。
国交省が、国民の命を、安く扱うようになってきた。
その原因は、私たちが、自分や他人の誇りを、
安く扱うようになってきたからではないか。


文●楢木望
ビジネスエッセイスト/ライフマネジメント研究所所長
『月刊就職ジャーナル』編集長、『月刊海外旅行情報』編集長を歴任。その後、ライフマネジメント研究所を設立、所長に就任。採用・教育コンサルタント、就職コンサルタント、経営コンサルタント。著書に『内定したら読む本』など。