男性が自分の父親のことを語ることは、そう簡単なことではありません。むしろ苦手な人の方が多いでしょう。また、それを愛をもって語ることは、ごく限られた一部の人にしかできない芸当かと思われます。

 今年4月に還暦を迎えたさだまさし。そんなさだまさしが愛してやまないという「父親」をテーマにして執筆したのが、書籍『かすてぃら』。『精霊流し』『解夏』『眉山』など、多くの名作を綴る作家でもあるさだまさしが父に捧げた、「もうひとつの"精霊流し"」と銘打った自伝的実名小説です。

 「父が危篤」と連絡を受けたさだまさしが病院にかけつけるところから始まる物語は、周囲から「スーパーマン」と言われる父の生き様や、そんな父に振り回される家族の様子などが細かく描かれています。

 父がスーパーマンと言われる理由とは。

 「これ程女房に金の苦労をさせ続けたのに、いつも笑顔で胸を張っていた人は珍しい。それに、マメで働くことを厭わぬばかりか働くことが大好きだったのに、これ程お金に結びつかなかった人をほかに知らない。その苦労が身につかず、息子が稼ぎ始めると自分の夢やアイデアを次々と繰り出し、息子の稼いだ金を惜しみなく使い、挙句の果てには中国で映画を撮ることに夢中になって、自分は中国から国賓待遇で招待され、感謝状やら貰いながらいい顔をして、二十八億もの借金を息子に背負わせて少しも悪びれず、明るい笑顔を絶やさず、絶えず冗談を繰り出して人々を楽しませ、沢山の人々に"お父さん大好き"と慕わせてしまうのである」(本文より)

 確かに、想像するだけでもただ者ではありません。しかし、さんざん周囲に迷惑をかけて振り回しておきながらも、最後には「大好き」だと思わせてしまう、愛すべき人柄の持ち主なのです。

 これだけの苦労を息子にかけておきながら、「苦労させて済まんな」の詫びのひとつもいれたことがないと、さだまさしは言いますが、同じ男として、時にはその図太さも魅力的に写ったのではないでしょうか。

 父を語っている男の姿は優しく映るもの。それが故に男にとって父を語ることは、簡単ではないのです。



『かすてぃら』
 著者:さだまさし
 出版社:小学館
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